Research Abstract |
本年度は,初頭にIODP EXP308「Gulf of Mexico Hydrogeology」に参加した.その目的は,付加体浅部の剪断と堆積物物性変化の相関を明らかにするために,そのアナログとして同地域に発達する巨大地すべり岩体に注目し,地すべり剪断による堆積物の物性・ファブリック,それに透水特性変化の相関を検討するものである.初期の結果は,IODP Preliminary Reportにおいて発表された. 陸域に唯一露出する浅部付加体として注目される三浦・房総付加体について,初めての総括的な構造地質論文をまとめ,国際誌Tectonicsに掲載された.本付加体は,はぎ取り付加によって形成された付加体で,(1)プレート境界の分岐断層,(1)により陸側に付加した地質帯のうち,(2)衝上断層系など剪断変形が集中した下部,(3)剪断変形をほとんど被っていない上部,に対応する3つのユニットに区分された.最大埋没深度は1000メートル以浅,最高被熱温度は50℃以下,そして付加作用による総隆起量は1000-1500メートルであると示された. 各ユニットにおける各種物性解析やファブリック解析によって,沈み込み帯前縁部の歪史および物性変化過程を明らかにし,国際誌Earth and Planetary Science Lettersに受理された.各ユニットがそれぞれ(1)付加体浅部域プレート境界断層,(2)付加体浅部で最初期に形成される過圧密堆積物,(3)付加に伴う剪断歪みを被っていない正規圧密堆積物をそれぞれ保存していることが明らかとなった.特に,プレート境界断層発達以前に,先駆的な剪断歪みによって過圧密堆積物が形成され,後の歪み集中,最終的にはプレート境界断層の発達に大きな制約を与えていることを明らかにした. 本年後半は,京都大学においてガス圧透水試験機を用いた間隙率・浸透率変化モニタの実験を行った.付加体浅部で剪断によって形成された過圧密堆積物が,付加体深部や地震発生帯上限付近まで流体を持ち込み,周辺物質の強度低下を引き起こしている可能性が明らかになった.付加体浅部の変形が深部変形に大きな影響を与えうるという世界初の知見であり,今後も検証が求められる.
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