2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J00547
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 名古屋大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 延慶本『平家物語』 / 十二巻本表白集 / 大須真福寺 / 表白 / 歴史認識 / <寺-天下>同調史観 |
Research Abstract |
大須真福寺所蔵の十二巻本『表白集』巻第四について調査し、翻刻と解題を公にした。十二巻本『表白集』は1200年前後に仁和寺御室の周辺で編纂されたと考えられる表白文の類聚で、院政期から鎌倉時代の文化を考えるには格好の資料である。その巻第四の諸本としては、国立歴史民俗博物館所蔵本(鎌倉時代前期書写)・京都女子大学所蔵本(鎌倉時代中期書写)などが知られているが、真福寺本もおそらくは鎌倉時代の写本と認められ、貴重な存在である。その本文を調べた結果、歴博本がもっとも整った本文を持ち、対して真福寺本と京都女子大学本とは共通の誤写箇所を持つなど、ごく近い位置にあることが判明した。合わせて収録される表白各篇について、その作者・施主・制作年代・思想的背景などを考察した。このような考察から判明したことの一つは、寺院における文筆活動の中には、歴史認識に関わる面が存在することである。そこで、表白や文書における歴史認識のあり方を延暦寺・園城寺・東大寺を例に考察し、それらと延慶本『平家物語』の歴史叙述との類似点・差異を探った。その結果、鎌倉時代の寺院においては、<寺-天下>同調史観とでも言うべき認識が基本になっていることがわかった。これは、自らの寺院の興廃と天下の盛衰とを連動させる見方で、自寺院の正統性を前面に押し出す認識である。延慶本『平家物語』は基本的にこの枠組みを採用し、権門寺院の興廃と天下の盛衰とを連動させる叙述方法を採用する。しかし、特定の寺院の主張に偏ることなく、いくつかの寺院を同等に見る視座をも合わせ持っている。つまり、<寺-天下>同調史観を特定の寺院の主張から切り離して普遍化することで、特定の立場に偏らない物語の叙述を創り上げることに成功したのが延慶本『平家物語』であると考えられる。
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Research Products
(2 results)