2003 Fiscal Year Annual Research Report
腎臓と神経の発生及び再生に関与する遺伝子の探索及びその機能の解明
Project/Area Number |
03J00642
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
榎本 篤 名古屋大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | Akt / アクチン / GDNF / RET / 細胞運動 / RNA干渉 |
Research Abstract |
本研究の目的は腎臓および神経系の発生に重要な役割を果たしているRETチロシンキナーゼ型受容体とそのリガンドであるGDNF (glial cell-derived neurotrophic factor)のシグナル伝達系の機能をより詳細に解明することである。GDNF-RETシグナル伝達系の下流では様々なアダプター因子を介してMAPキナーゼ系あるいはPI3キナーゼ-Akt系が活性化され、細胞の分化・生存・増殖・運動に関わっていることが明らかにされている。RETあるいはGDNFのノックアウトマウスの解析により、本シグナルは腎臓および神経系の発生に必須であることが報告されている。本年度はGDNF-RETシグナル伝達系の下流で活性化されるセリン・スレオニンキナーゼであるAkt1(別名PKBα)の機能をさらに解明するために、Akt1の新規結合タンパク質を探索したAkt1のC末端をベイト蛋白に用いた酵母two-hybrid法によりヒト精巣cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、新規結合タンパク( Akt1-binding protein、以下ABP)を同定した。ABPは約250kDaの分子で、大きなcoiled-coil領域を中心にもち、その両端に機能未知のN末端領域とC末端領域を有している。ノーザンブロット法でABPはヒトの各種臓器にユビキタスに発現する遺伝子であることが明らかとなった。ABPに対するポリクローナル抗体を作製し、免疫沈降法によりABPとAkt1が繊維芽細胞内で結合していることを確認した。さらに細胞を用いた免疫化学染色を行い、ABPが細胞のアクチン骨格系と共局在することを見いだした。ABPの各種フラグメントを大腸菌発現系を用いて精製し、アクチンとの結合をcosedimentationアッセイで調べたところ、ABPのC末端領域がアクチンと直接的に結合することを確認した。このC末端アクチン結合領域を繊維芽細胞に強制発現させたところ、アクチンストレスファイバーの消失と細胞膜のラッフリングが観察された。 次にsiRNAによるRNA干渉法を用いて、COS7細胞とVero細胞の内因性ABPをノックダウンしたところ、ストレスファイバーの消失と細胞形態の異常が確認された。Boyden chamberアッセイを行ったところ、ABPのノックダウンにより、細胞運動能の低下が観察された。 以上の結果により、Akt1はABPと結合することにより、アクチン骨格系の制御を行い、細胞運動にかかわっている可能性が示唆された。今後はABPがAkt1の基質となりうる可能性を調べると同時に、ABPの新たな結合タンパク質を探索し、ABPのより詳細な機能の解明を行いたいと考えている。さらにGDNF-RETシグナル伝達系におけるABPの役割を解明したいと考えている。
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