2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J00998
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
齋藤 久美子 早稲田大学, 人間科学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 古代エジプト / 壁画 / 石膏 / プラスター |
Research Abstract |
古代エジプトでは、壁の仕上げに石膏プラスターが使われており、科学分析の結果では、二水石膏のものと無水石膏のものとが報告されてきた。しかし、天然の石膏原石を焼き、半水石膏にしたものをプラスターとして使用した場合、硬化したものは通常二水石膏となる。固まった時点で無水石膏であることは有り得ず、なぜ無水石膏なのかが問題となっていた。可能性として、仕上げた当時は二水石膏であったものが、低湿度の環境下で三千年にも及ぶ長い年月を経た結果、無水石膏に変化したか、あるいは、原石を焼成した際、温度管理の未熟さから焼き過ぎが生じ、無水石膏となってしまったものを、なんらかの媒材を用いて固めたものと考えられた。エジプトの気候は確かに乾燥してはいるが、常温年おいて二水石膏が無水石膏になることは石膏の材料科学の分野では考え難く、また、本当に経年変化したのかは、あまりにも長時間が経過しているため追実験も困難な状況にある。そこで、上記の問題点を検討するために、早稲田大学エジプト学研究所所蔵の壁画片の成分分析と結晶構造の顕微鏡観察を行ってみた。 結果は、石膏成分については無水右膏のみが検出された。結晶構造を見ると、通常半水石膏が二水石膏に固化する際に見られるのと同様の結晶が形成されており、焼いた無水石膏の粒子の形状とは異なっていた。以上の点から、固化は半水石膏から二水石膏への結晶化によるもので、結晶後さらに無水石膏へと経年変化したものと推測された。 また、エジプトの図像解釈の方法論的研究の一環として、中王国時代の美術様式の変化について論考にまとめた。これまでの研究では、現代人の目に映りの良いものが技術的にも優れており、研究者の主観的な印象をそのまま解釈とした例もあったが、様式変化の流れを時代背景に照らして詳細に検討することで、より妥当な見解が導き出されることを例証し、方法論構築の必要性を確認した。
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Research Products
(1 results)