2003 Fiscal Year Annual Research Report
内殻励起がもたらす分子の動的運動と緩和過程に関する理論的研究
Project/Area Number |
03J01070
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大塚 教雄 早稲田大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 内殻励起ダイナミクス / 第一原理分子動力学法 / ウェーブレット変換 / 時間-周波数解析 / 内殻正孔寿命 / 振動モード |
Research Abstract |
近年のシンクロトロン放射光測定技術の発展による内殻励起状態での分子の動的運動という新しい概念理解のために、本研究は、内殻電子励起が及ぼす分子の動力学的運動を取り扱う理論と計算手法を構築し、実験事実との検証と共に新しい械念理解への理論的データを提供することを目的としている。本年度は、内殻励起初期ダイナミクスの理解を目的とした。これは脱励起後の分子の断片化・イオン化反応の理解に重要となってくる。まず、電子励起状態と分子運動を取り扱う、分子軌道(MO)法を用いた第一原理分子動力学法(ab initio MD)の開発を行った。基底状態から内殻励起状態への連続的なMD計算を実行可能とすることにより、内殻励起ダイナミクスのシミュレーションを可能とした。次に、内殻励起ダイナミクスを取り扱う非平衡状態ダイナミクスを解析する手法としてウェーブレット変換を用いた新規解析手法を確立し、そのプログラム作成を行った。詳細な実験報告と理論解析がなされているBF_3分子に適用した。本研究によるab initio MD計算では、内殻励起によりB原子が面外方向へ移動し、平面から4面体への構造変化の結果を得た。この構造変化は、数10フェムト秒以内という時間スケールで達成され、内殻励起による超高速分子変形が起こりえる事を示した。本研究による新規解析手法であるウェーブレット変換による時間-周波数解析から、内殻励起後100フェムト秒内に内殻励起平衡構造C_<3v>のA_1対称変角振動に対応する振動モードを見出した。これは、内殻励起寿命内の非定常運動モードの観測という新たな知見として実験的観点からも重要なものであると考えられる。更に500cm^<-1>付近の非対称変角振動が内殻励起前後にほぼ連続的に観測され、BF_3内殻励起ダイナミクスではモード間エネルギー移動に重要であると考えられる。当該研究課題の成果について、国内発表1件を行った。
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