Research Abstract |
本年度は,(1)イノセラムス類の異時性的形態進化,(2)本邦白亜紀イノセラムス類の種多様性の経時変動,(3)セノマニアン/チューロニアン期境界(C/T境界)で生じた環境擾乱に対するイノセラムス類の応答様式,などの研究課題に取り組んだ. (1)の研究では,イノセラムス類のSphenoceramus属のサイズや形質発現の層序的変化について検討した。その結果,同属の系列に関して,後期の時代になるにつれて殻サイズが50倍にもなる大型化傾向を示すことや,一部の形質発現が後期の時代ほど早くなるという異時性的形態進化傾向を示すことが明らかとなった.(2)の課題では,既出版の約100の文献を精査し,本邦産イノセラムス類の種多様性変動や絶滅・放散率,多様性増減率,属構成の経時変化を明らかにした.その結果,(1)海洋無酸素事変の発生した時期に高い絶滅率が検出される,(2)種多様性は,第2オーダーの汎世界的海水準変動と調和的に変動し,統計学的にも有意な相関を示す,(3)日本産アンモナイト類の種多様性変動とは無相関である,(4)急激な相対的海水準の低下に呼応して,種多様性は大きく減少する,などの結果が得られた.(3)の課題では,生層序学的・生物統計学的調査を行い,貧酸素環境・貧栄養環境などに対するイノセラムス類の応答様式を明らかにした.(2)の研究から,C/T境界を挟んでイノセラムス類の種絶滅率は100%であり,それに伴い属構成が大きく変化していることが判った.さらに,C/T境界直後には,(1)統計的に有意にサイズが矮小化する,(2)サイズの種間変異が著しく減少する,(3)汎世界的分布種が卓越する,ということが明らかとなった. これらの成果のうち,(3)に関しては「Cretaceous Research」誌に論文が受理済みであり,(2)の成果についても「Paleontological Research」誌に論文を投稿中である.
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