2005 Fiscal Year Annual Research Report
ヘパラン硫酸の特異的硫酸化による細胞間シグナル系の調節機構
Project/Area Number |
03J01321
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
神村 圭亮 愛知医科大学, 分子医科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヘパラン硫酸 / 硫酸転移酵素 / FGF / ショウジョウバエ |
Research Abstract |
ヘパラン硫酸は細胞増殖因子、プロテアーゼ、細胞外マトリックス分子など極めて多様な分子と相互作用する事により、様々な生物学的活性を示す。この多彩な機能は、「異なる硫酸化パターンを持つヘパラン硫酸が、それぞれ異なるタンパク質と結合し、シグナルの特異性を決定する。」ことから生じると考えられている。異なる部位の硫酸化は、それぞれ異なるヘパラン硫酸転移酵素(N,2-O,6-O,3-O硫酸転移酵素)により触媒される。しかしヘパラン硫酸に関するこれまでの解析はin vitroでの研究が主流を占めていたため、個体発生における機能に関しては未だはっきりしていない。そこで私は遺伝学的手法が有効なショウジョウバエを用いて2-O及び6-O硫酸転移酵素(Hs2st及びHs6st)に注目し機能解析を行なった。まずはじめにHs2st及びHs6st遺伝子の完全欠失変異体を単離した。次にこれらの遺伝子の組織におけるmRNAの発現を調べたところ、Hs2stは多くの組織で一様に発現し、Hs6stは気管前駆細胞において強く発現しているが判明した。ショウジョウバエの気管形成はFGFシグナルに大きく依存することが知られているため、Hs2st及びHs6st遺伝子の気管形成における機能について調べた。意外な事にHs2st及びHs6st変異体では多くの個体で気管が正常に発生した。これらの変異体におけるヘパラン硫酸の構造をHPLCを用いて調べたところ、Hs2st変異体では6-O硫酸基が、Hs6st変異体では2-O硫酸基が増加し、その結果変異体における全体の硫酸基量は野生型と比べて全く変化していないことが分かった(硫酸基量補償機構)。個体内での硫酸基量の維持が発生過程においてどのような重要性を持つのか明らかにするため、次にHs2st ; Hs6st二重変異及び分泌性6-O脱硫酸化酵素の発現が気管形成に与える影響について調べた。Hs2st ; Hs6stでは気管が全く形成されず、FGF依存性MAPKの活性化が著しく低下した。この結果は2-Oと6-O硫酸化ヘパラン硫酸はFGFシグナルにおいて重複した機能を持つ事を示す。また、分泌性6-O脱硫酸化酵素遺伝子発現個体では6-O硫酸基が著しく減少し、他の硫酸基の増加は認められない。その結果全体の硫酸基量は野生型の70%程度にまで減少する。非常に興味深い事にこの個体はHs6st変異体より高い致死率を示し、強い気管の形態異常を示した。以上の結果から、ショウジョウバエのFGFシグナル活性化において、厳密な硫酸化パターンよりむしろ硫酸基量が重要な働きをすることが示唆された。
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