2003 Fiscal Year Annual Research Report
脳由来神経栄養因子(BDNF)の1塩基多型(SNP)の分子神経生物学
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03J01669
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小清水 久嗣 独立行政法人産業技術総合研究所, 人間系特別研究体, 特別研究員(PD)
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Keywords | 脳由来神経栄養因子 / 神経細胞 / 一塩基多型 / SNP / 神経細胞死 / アポトーシス / 神経疾患 / リスクファクター |
Research Abstract |
「脳由来神経栄養因子,BDNF」は脳に豊富に存在する成長因子であり、神経細胞の生存維持をはじめ多くの生理活性を発揮する。BDNFは、前駆体(pro体)がプロテアーゼによる切断によって成熟型(mature体)になるが、その分子メカニズムと神経細胞機能の関係はまだ十分に理解されていない。我々は、この問題の解決の糸口として、BDNFのプロテアーゼ切断部位に位置する「一塩基多型,SNP」に注目したBDNF遺伝子には6つのSNPが見つかっているが、プロテアーゼ切断部位に位置するSNPでは2つのArgがMetとLeuに置換されている(R125M/R127L)。 R125M/R127L-BDNFを、シンドビスウイルスベクターを用い培養中枢神経細胞に発現させたところ、細胞内でpro体のみが観察され、mature体は生成されていなかった。培養海馬神経細胞内のR125M/R127L-BDNFの局在を、観察したところ、野生型BDNFと変化が見られなかった。培養上清中に放出されたR125M/R127L-BDNFを免疫沈降したところ、pro体のみ確認され、細胞外でもmature体は生成されていなかった。神経細胞死モデルの小脳顆粒神経細胞に野生型BDNFおよびR125M/R127L-BDNFを発現させた。小脳顆粒細胞は低濃度カリウム(LK)培地によって神経細胞死が誘導されるが、野生型BDNF発現細胞では生成したmature体の生存維持効果によって細胞が保護された。一方、R125M/R127L-BDNF発現細胞では生存維持効果が消失し細胞死が促進されていた。しかしp75^<-l->細胞では、R125M/R127L-BDNFは野生型と同様の生存維持効果を示した。この結果はR125M/R127L-BDNFがp75を介し細胞死誘導することを示している。BDNFのプロテアーゼ切断部位に位置するSNPが、BDNFの「生存維持活性」を「細胞死促進活性」に変換し、我々の脳の「リスクファクター」として働く可能性が示唆された。
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