Research Abstract |
本研究では,分子データから得られる信頼性の高いスナガニ類の系統類縁関係をベースに,個々の種の生態学的な情報や地理的分布の情報を照らし合わせ,さらに,闘争,配偶行動様式とウェービング行動の詳細な観察,記載,比較を通して,ウェービング行動の起源を考えることで,スナガニ類にみられるウェービング様式の多様性について総合的に考察することを目的としている.今年度の研究では,スナガニ科,チゴガニ属におけるウェービング行動と生態的,地理的分布に関する情報を収集,整理し,前年度の研究で得たチゴガニ類の系統関係の知見をもとに,チゴガニ類におけるウェービング様式に進化過程について検討をおこなった.その結果,チゴガニ類では,ハサミを外から内側にまわすcircular typeが一般的で,そこから垂直にハサミを上下させるvertical typeや左右のハサミを不相称に動かすasymmetrical typeが派生的に進化してきたと推測された.また,基本的には,同所的に生息する種間では同じタイプのウェービングがみられないことがわかった. チゴガニ類の研究と平行して,スナガニ類のウェービング行動の起源を考えるために,スナガニ類と同所的に生息しているイワガニ類についても,既存文献調査や野外調査をおこない,その社会行動のデータの収集を昨年に引き続きおこなった,その結果,これまでにイワガニ類においてはウェービング行動の報告がほとんどなかったものの,いくつかの分類群においてウェービング行動が観察された.今後,これらの種において,さらに闘争行動や配偶行動などの社規行動のデータを収集し,スナガニ類の情報と比較をおこなっていく予定である.
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