2003 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義経済計算論争、市場社会主義論、オーストリア学派経済学
Project/Area Number |
03J01823
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
塚本 恭章 國學院大學, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 社会主義計算論争 / 市場社会主義 / 市場経済 / 社会主義 / 資本主義経済 / オーストリア学派 / マルクス経済学 / 市場プロセス |
Research Abstract |
社会主義社会の存立可能性をめぐって展開された20世紀最大の論争である「社会主義経済計算論争」の今日的意義をより明確化するという当初の研究実施計画に照らし、今年度の研究業績は次のように整理される。まず1980年代のオーストリア学派による計算論争再検討を踏まえ、ソ連型社会主義崩壊以降の新たな論争状況を再考すべくその代表的論者J・ローマーの所説の書評論文を執筆した(「John E.Roemer A Future for Socialism-「第5段階」の市場社会主義論」)。オーストリア学派のハイエクや東欧改革派のコルナイらの社会主義批判を乗り越えるべく構想されたローマーモデルは、クーポン資産市場への平等参加をインセンティブ設計という視点で精緻化したものである。その理論的参照枠として新古典派一般均衡理論に依拠しているという問題性を有してはいるが、動態的な効率性と機会の均等主義という両理念を同時に実現し得る肥沃な可能性が現代の資本主義システムのなかに見出されるという問題意識は注目に値する。またこうした欧米の社会主義論を意識して執筆された伊藤誠氏(國學院大学教授)の研究書をレビューする作業も併せて遂行し、社会主義経済計算論争や市場社会主義論における現代的な挑戦課題(計算尺度の規定問題や公的所有下における革新的競争の誘発問題等)を再認識することができた(「社会主義の新たな政治経済学を求めて-『市場経済と社会主義』を読む」)。市場社会主義の理論・思想の歴史的発展を学説史的にフォローした内外の重要な研究書をいわばセットで精読し批判的に検討する作業は大きな意義があった。なお補足的業績として、経済学史学会(2003年5月24日、同志社大学)における口頭発表「O・ランゲの社会主義経済像-独占、経済的進歩、民主的統制の視点から-」および、日本経済政策学会(2003年5月25日、東洋大学)における日向健氏(山梨学院大学教授)の報告に対する討論者を行ったことを申し添えておく。
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