2004 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義経済計算論争、市場社会主義論、オーストリア学派経済学
Project/Area Number |
03J01823
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
塚本 恭章 國學院大學, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 社会主義経済計算論争 / 市場社会主義 / オーストリア学派経済学 / 機会の均等主義 / 誘因両立性 / 革新的競争 / 所有権 / 情報の経済学 |
Research Abstract |
社会主義社会の存立可能性をめぐって争われた「社会主義経済計算論争」の今日的意義を明確化するという当初の研究実施計画に照らし、本年度の研究成果として、ジョン・ローマーによって展開されたいわゆる「第5段階」の市場社会主義モデルを包括的に検討した「市場社会主義の現代的モデルの理念と方法-機会の平等主義、誘因両立性、革新的競争」と題する論文を執筆した。ソ連型社会主義崩壊以降の新たな論争状況では、社会主義経済計算論争における原問題である、本源的生産手段の公的所有下における合理的経済計算の不可能性という「計算問題」(あるいは「計算尺度の規定問題」)は実質的に主要な検討課題とはみなされず、情報や誘因の経済学などの「拡張」新古典派ミクロ理論によって資産市場をも組み込んだ誘因整合的な社会主義システムの再設計が主題化された。そこでは実現すべき社会主義の理念は「機会の平等主義」として再定義され、企業の組織形態(コーポレート・ガバナンス)のあり方や革新的競争の誘発といった問題も併せて問い直されている。しかしローマーの議論においても、市場による需給均衡価格でなければ合理的な計算の尺度や基準にはなり得ないという理解を前提としており、そのことが社会主義経済モデルの理論的可能性の幅を狭くし、社会主義経済の本来の長所を発揮し得なくなるのではないかという疑問符が課される。ソ連型社会では市場の需給関係を介さない擬似的な価格形態(社会主義的価格)や社会主義的貨幣が用いられ、それらが再生産を維持する一定の社会経済的機能を有していたことに着目するならば、新古典派の需給均衡価格論とは異なる理論的枠組み(例えばスラッファ体系)の適用可能性にも考察を及ぼす必要があると考えられる。社会主義経済における市場機構の機能や領域という理論問題をも含め、市場社会主義論に関する体系的な学説の構築が要請されている。
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