2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J02142
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
北村 直昭 上智大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヨーロッパ中世史 / 古書体学 / 写本研究 / 文化史 / 文字 / 写本 |
Research Abstract |
本年度の前半は、ラテン古書体学の研究史の調査と整理にあたった。その後、中近世を中心に、古代から近現代までの歴史のなかの「ローマ概念」の継承を扱う論文集『幻影のローマ』(歴史学研究会編、青木書店刊)の執筆に参加することとなった。そこで、年度前半におこなった研究史の整理をふまえて、「中世写本の文字と<古代ローマ>」と題する論考を執筆し、間もなく入稿する。 その中でまず、現在使われているローマ字の大文字は、古代ローマにおいては手書き文字として使われていた書体ではないことが明らかになっている現在の研究状況を紹介した。そして、この書体が手書き文字として書物に使われるようになったのは、おおよそカロリング期からであって、それ以前の写本にはこの書体が使われていないことを論じた。そのうえで、この時期に古代ローマ帝政期の碑文書体を、意図的に福音書などの写本、すなわち書物の中に取り入れたのは、カール大帝やその側近など、カロリング王権の中核に近いところであったという議論を展開した。 ここから明らかになったことは、この時期にこのような書体が新たに写本に導入されたのは、通常の書体の変遷とは異なる意図的な要因によるのであり、カロリング王権におけるローマ理念、皇帝理念が大きく影響しているということである。従来、写本や書体に関するカロリング・ルネサンスの成果としては、カロリング小文字体の普及に注意が向けられることが多く、その他の文字表現が注目されることは、一部の専門家をのぞきほとんどなかった。しかし、ここで取り上げた事例のように、テクストと図像だけでなく、書体やページレイアウトなどを含めた総合的な文字表現のなかに、中世の心性を理解する可能性があることを示したこともこの研究の成果の一つである。
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Research Products
(1 results)