Research Abstract |
本年度は,黒毛和種の遺伝的多様性の維持・回復のため,品種の遺伝子給源となる種牛供給系統群と,その遺伝子を導入する繁殖雌集団からなる機能的階層構造を想定し,系統群を維持・管理する上で留意すべき以下の2点について理論的検討を行った. 1.繁殖雌集団の近交係数の抑制 2.系統内の近交係数の抑制と系統群全体および系統間における遺伝的多様性の維持 検討事項1に対しては,輪番交配をモデルとして採用し,系統群の集団構造を変量とした雌集団の近交係数の漸化式を導出した.数値計算からは,世代当たり数頭の雄からなる4,5個の系統を確保できれば,系統内の有効サイズの大きさに関わらず,雌集団の近交係数を低いレベルに抑制できることを明らかにした. 検討事項2に対しては,中国5県において系統が造成・維持されている分集団構造をモデル化し,系統群の集団構造の影響について検討を加えた.また,家畜育種学および保全生物学における知見を基に,系統内の近交係数の上昇率,10世代後の系統群全体および系統間の遺伝的多様性指数に目標値を設定し,それらを満たす最適な系統内の雄の数(N_m)と系統間における雄の交換率(d_m)の探索を行った.諸条件から導かれた各目標値の変化を総合的に勘案した結果,N_m=10およびd_m=0.1が最適値であると結論付けた. 系統間における雄の交換は雌集団の近交係数を増加させる危険性があるため,本研究では上述した2つのモデルを融合させ,雌集団の近交係数の漸化式を再導出し,検討事項1について再度検討を行った.数値計算の結果,系統間で一定の割合で雄の交換が行われていても,4,5個の系統が確保できれば,輪番交配は雌集団の近交抑制に有効であることを明らかにした.さらに,上述した最適値に基づいて,中国5県集団を基礎とする5系統を維持すれば,同品種の近交係数は無視し得るほど低いレベルにまで抑制できることを示した.
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