2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J04438
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川上 陽介 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 四鳴蝉 / 都賀庭鐘 / 玉簪記 / 四声猿 / 六十種曲 / 南戯 / 曲牌 / 白話 |
Research Abstract |
中国白話文学作品『笑府』『開巻一笑』『照世盃』などの調査に引き続いて、今年度は、日本人によって作られた白話文学作品『四鳴蝉』の調査に取り組んだ。その結果をまとめたものが、拙稿「『四鳴蝉』の作詞法について-『玉簪記』との関係-」(『京都大学国文学論叢』第13号、2005年3月)である。明和八年(1771)十二月に刊行された『四鳴蝉』という作品は、初期読本『英草紙』『繁野話』『莠句冊』の作者として知られる都賀庭鐘が、わが国の謡曲・歌舞伎・浄瑠璃を、中国古典戯曲の様式にならって漢訳し、一冊にまとめて出版したものである。従来、この作品は、明末の文人・徐渭の雑劇『四声猿』の影響のもとに作られたものであろうと推測されていた(徳田武1985・1987)。しかし、『四鳴蝉』に収められている四作品のタイトル「惜花記」「扇芝記」「移松記」「曦鎧記」は、『四声猿』のそれではなく、「琵琶記」「荊釵記」「浣沙記」などという『六十種曲』所収南戯作品の形式と一致していること、また、『四鳴蝉』「惜花記」に使用されている曲牌は、『四声猿』のそれと共通するものは少なく、『六十種曲』所収作品のなかのものを利用していると考えられること、以上二つの理由により、タイトルの命名および曲牌の使用という点に関して、『四鳴蝉』は『四声猿』をほとんど参考にはしていなかったと判断することができるのである。さらに、『四鳴蝉』「惜花記」の本文と中国古典戯曲作品を丹念に読み比べてみると、中国古典戯曲の曲律にそぐわないように見える『四鳴蝉』の曲詞と同じものが、見た目の詞型としては『玉簪記』にだけ共通して用いられているものがあること、ト書きの文章に一部『玉簪記』と同文のものが見られること、『過目抄』に『玉簪記釈義』からの抜書があること、十種類もの曲牌が『四鳴蝉』と『玉簪記』とに共通していること、これらの事実から、『四鳴蝉』が実際に作詞の手本として利用した作品は、『四声猿』よりも、『玉簪記』であった可能性が高いということを明らかにすることができたのである。
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Research Products
(1 results)