2004 Fiscal Year Annual Research Report
モンゴル牧畜社会における家畜の意味:社会主義経験と個別的/普遍的な価値の接合過程
Project/Area Number |
03J04528
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
風戸 真理 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 移行期 / 市場経済 / 社会主義 / 家畜管理技術 / 牧畜 / 国家の政治経済 / 人間と家畜の関係 / モンゴル |
Research Abstract |
移行期のモンゴル国における家畜をめぐる在来価値と市場価値の接合過程を、家畜管理技術にみられる人間と家畜のミクロな関係を把握し、また社会主義の歴史的経験を踏まえた上で明らかにするため、調査検討を進めてきた。 4〜6月に夏の調査に向けて準備を行い、7〜9月にはモンゴル国でフィールドワークを行った。首都ウラーンバートルではモンゴル国立大学のスタッフや客員研究者との議論をとおして研究テーマと調査方法を再検討した。また街の書店を回って社会主義期に発布された法令集、牧畜地域における社会主義期の変化を扱った小説、牧畜の技術指導書、地図を収集した。牧畜地域としてはザブハン県テルメン郡に66日間滞在し、社会主義期と市場経済化期それぞれにおける牧畜経営の形態、社会・経済組織、牧畜の技術的側面に関してフォーマルな情報と、インフォーマルな個人レベルの情報を集めた。フォーマルな情報は、(元)役人にインタビューを行い、中央・地方の統計資料や文書資料を収集した。インフォーマルな情報は郡内の5行政区のうち自然環境の異なる2行政区を選び、各行政区に属する遊牧世帯の半数以上を訪問して参与観察とインタビューによって得た。 10月には夏の調査結果の一部をまとめ、京都ワークショップ「フィールドワークから紡ぎだす-発見と分析のプロセス-」(10月30-31日、京都大学時計台記念館・国際交流ホール)にて個人の口頭発表「移行期モンゴル社会における遊牧民の社会組織:牧畜も商売も教育も」として報告した。その主旨は次の通りである。社会主義期には社会組織の大部分が行政に管理されていたが、市場経済化後は各人が主体的に関係を構築・維持する必要が生じた。そこで人々は、親族や友人などの多様だが弱い紐帯を、日々の努力によってネットワーク的に編成して利用していることがわかった。またこれをとおして彼らが目指しているのは、牧畜の維持と成功にとどまらず、子どもに教育を受けさせることや安定した高収入の職業機会にアクセスすること、つまり生活戦略の多様性の確保であることを指摘した。 11〜3月には、調査結果の整理と分析をさらに進め、論文としてまとめてきた。
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