2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J04545
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
守川 知子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 巡礼 / 聖地 / シーア派 / イラン / イラク / アタバート / イスラーム / ガージャール朝 |
Research Abstract |
本年度は、『シーア派聖地参詣の研究-19世紀のイラン人とアタバート-』と題する学位請求論文を、京都大学文学研究科に提出した。この論考においては、16世紀初頭のサファヴィー朝成立以降、負荷されたシーア派信仰はイラン人の精神世界にどのような影響を与え、またイスラーム社会の中でも特異なシーア派世界をイランでは生み出していったのか、という点を明らかにするために、19世紀という時代を中心に、シーア派信仰の表象のひとつであるシーア派聖地参詣について、「アタバート」と呼ばれるイラクのシーア派諸聖地への参詣活動を中心に検討した。その結果、ナジャフやカルバラーを擁するアタバートへの参詣は、19世紀という「近代化」の渦中においてさえも、イランのシーア派ムスリムにとっては、メッカ巡礼にも勝るとも劣らない重要な位置を占め、かつ、数多の困難を乗り越えて、スンナ派国家の中に「飛び地」のように存在するシーア派聖地に参詣することによって、「シーア派である」という独自のアイデンティティが彼らの間に形成されることを明らかにした。また、欧米列強の圧力下に「国民国家」が形成される19世紀の中東社会において、「シーア派である」ということと「イラン人である」ということの二つのアイデンティティが結合することも、この時代の大きな特徴であり、現代のイラン社会に見られるようなイラン人意識の萌芽とその確立が、19世紀のシーア派聖地参詣の諸相からも確認されることが指摘された。 また本年度は、国内の大学図書館等での資料調査を頻繁に行ったが、これらの成果は、「参詣」という動態的研究に加えて、イラン内外のシーア派聖地そのものの静態的研究として発表していくことで、上述の学位請求論文の出版と合わせて、本研究の最終年度である次年度において、総合的に纏めていきたいと考えている。
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