2003 Fiscal Year Annual Research Report
ポリエチレンオキシド-水系ソフトマターの静的・動的構造と相転移機構の解明
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03J04643
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
千葉 文野 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中性子散乱 / 複雑液体 / 静的・動的構造 / カルコゲン / 半導体-金属転移 / X線小角散乱 / 水素結合 |
Research Abstract |
融点直上での液体セレンは10^5程度の原子から構成される高分子であり典型的な液体半導体である。セレンとテルルで構成される液体混合系は、温度上昇に伴い半導体から金属へ転移し、その転移温度はセレン濃度が高いほど上昇する。この半導体-金属転移は、静的構造の変化という観点からこれまでに研究がなされてきたが、動的構造やその変化はまだ殆ど研究されていなかった。我々は、ラザフォード・アップルトン研究所(英国)の装置MARIを用いて中性子散乱測定を行い、特に単一粒子の動的側面から、世界で初めて半導体-金属転移の機構を解明した。単一粒子的運動の他に、振動運動、拡散運動にも転移に起因する変化を見出し、広いエネルギー-波数スケールから、転移を説明することに成功した。平成15年度上半期は、この結果を3つの国際会議において発表し、加えて学術雑誌"Journal of Chemical Physics"に主な結果を発表した。以上の半導体-金属転移に関係する結果に加え、エネルギー-波数空間における液体の光学モードの振舞いについて、新たな知見を得た。一般に、複雑液体やアモルファスの光学的振動モードのエネルギー-波数空間における振舞いについて、定性的な解釈はこれまでに行われてきたが、定量的解釈は困難であり、シミュレーションと連携した研究が行われてきた。しかし、我々の系は半導体相では孤立鎖的であることが知られており、特に液体Seについてはその静的・動的構造が実験・理論両面から多く研究されていて、実験データのみから定量的解釈を行うことができる可能性を有する。実際、観測された結合伸縮モードの強度の波数依存性の特徴を、単純なモデル(結晶相での結合伸縮モードであるA_1モードの原子の動き方)を仮定することで再現できることが分かった。また、この波数依存性から、ボンド長やボンド角を見積もることができる可能性を見出し、得られた値はEXAFS等から見積もられた値ともよく一致することを見出した。 酸素と同族のセレンやテルルで構成される鎖状構造においては鎖間相関が生じることが知られており、上記半導体-金属転移にはこの鎖間相関が本質的である。セレン-テルル系の鎖間相関の機構は、酸素、セレン、テルル、等の周期表VI族の孤立電子対が関わるという点で、ポリエチレンオキシド(Polyethylene oxide, PEO, H-(CH_2-CH_2-O)_n-H)-水系における酸素-水素間の水素結合の生じる機構と同様であり、鎖間相関に起因する効果にもセレン-テルル系とPEO-水系の類似点が多い。平成15年度下半期には、ポリマー系に取り組み、まずはホモポリマー系をX線小角散乱実験によって研究した。結果は平成16年度6月にフランスで開かれる国際会議MACRO2004に投稿中である。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Ayano Chiba, Yoshinori Ohmasa, Makoto Yao: "Vibrational, single-particle-like, and diffusive dynamics in liquid Se, Te, and Te_<50>Se_<50>"Journal of Chemical Physics. 119・17. 9047 (2003)
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[Publications] A.Chiba, M.Yao, Y.Ohmasa, J.Taylor, S.M.Bennington: "Dynamics structure of liquid Se-Te and Se, Te mixtures by neutron scattering measurements"AIP Conference series. (印刷中).