Research Abstract |
生物の種多様性の創出,維持機構を解明する上で,繁殖に関わる形質の進化,特に雌雄問の共進化過程の解明は重要である.なぜなら,共進化により雌雄の形質に密接な対応関係が生じ,結果として他種との交配が妨げられる可能性があるからである.雌雄の交尾器もそのような形質の一つである.実際に多くの動物で,雌雄交尾器に密接な対応が成立していることが知られている.しかし現在まで,雄交尾器の特殊化に関する研究は数多く行われているが,雌雄交尾器の「錠と鍵」的対応をもたらす進化的要因を明らかにした例は少ない. そこで,雌雄交尾器が特殊化し,「錠と鍵」的対応を形成しているアオオサムシを材料として,交尾器のマッチングに関連して生じる,交尾のコスト,利益を測定し,雌雄交尾器の共進化プロセスを明らかにすることを目的として,研究を行った. 1.雄交尾器の機能と,雄側の利益 アオオサムシの雄交尾器にある「交尾片」の機能を調べるため,これを外科的に切除して,交尾成功への影響を調べてきた.結果,交尾片には,雄交尾器を雌交尾器内で安定させ,確実に精包を形成する機能があることが示された.本年度は,この結果を論文にまとめ,発表した. 2.雌交尾器内での精子の移動 交尾における雌側の利益,コストを明らかにするための基礎データとして,雌交尾器内で生じる精子の移動の実態を明らかにした.DAPIを用いて受精嚢内の精子を染色した結果,交尾後1〜2時間程度で精子の移動が生じることが明らかとなった.アオオサムシの精子は精包内で精子束を形成するが,受精嚢に移動後もこれは保持され,受精の直前に分解することが,染色画像から示唆された. 3.材料収集 来年度に実施する交尾実験に備え,秋に出現する未交尾個体を採集し,越冬させている.次年度の5月初旬から春化処理を行い,交尾実験を行う予定である.
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