2003 Fiscal Year Annual Research Report
十八世紀ブリテンを対象とした経済思想史研究―時間意識の言説史として
Project/Area Number |
03J04919
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森 直人 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 十八世紀ブリテン / 社会的・経済的変動 / 商業と公信用の膨張 / 道徳哲学の課題 / ヒューム『政治論集』 / ヒューム商業社会認識の両義性 / 商業社会の本質 |
Research Abstract |
本年度初頭に設定した三つの研究課題、すなわち(1)十八世紀ブリテンにおける社会的・経済的な変動の把握、(2)これらの変動が当時の諸言説に対して有した影響の理解、(3)以上の二点をコンテクストとしたヒューム『政治論集』の解釈、のそれぞれに即して研究の実績を報告する。 (1)十八世紀ブリテンにおける経済変動に関する資料を収集し、この変動を、国家の領域的拡張を含む商業・軍事・信用(とりわけ公信用制度)・行政府の膨張・強大化として把握した。ここに、あらゆる側面で社会が拡大し、また同時にそうした拡大を支える諸制度・機構が膨れ上がって行く姿を捉えることができる。 (2)このかつてない規模での膨張、とりわけ公信用というまったく新しい制度の急激な膨張が、在来の諸言説に与えた深刻な影響を考察した。当時の道徳哲学者たちは、既存の言説の直接適用によっては決して扱い得ない深刻な現実に直面していた。その問題群の重要なひとつが、上記の巨大な社会的経済的変動を、どのような形で把握・認識するか、またそのうちのどの部分をそれぞれ擁護し、許容し、非難するべきか、という問題であったと考えられる。 (3)巨大な社会的・経済的な変動をどのように認識するかというこの問題をコンテクストとして、ヒューム『政治論集』の解釈を行った。『政治論集』には、商業に対する肯定的な認識と公信用に対するきわめて否定的な認識とが同時に含まれており、商業社会認識に関するこの両義性はヒュームに関する思想史研究上の重要な論点となっている。この論点について、前二項から得られた知見を基礎として、商業の発展と公信用の害悪が、ヒュームの認識において不可分であったとする解釈を試みた。 以上、(1)十八世紀ブリテンの経済変動と、(2)その言説に対する影響とを踏まえた、(3)ヒューム商業社会認識における両義性についての新たな解釈が、本年度の研究成果である。これについて2004年3月の日本イギリス哲学会大会にて報告を予定している。
|