2003 Fiscal Year Annual Research Report
インド酪農村経済とカースト-「世界基準」と「ヒンドゥー世界」の理解のために-
Project/Area Number |
03J04973
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡 通太郎 京都大学, 大学院・アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | インド / 酪農 / 白い革命 / 農村経済 / カースト / インターリンケージ / パトロン・クライアント |
Research Abstract |
インドにおいて現在協同組合の垂直統合を唱え酪農村開発を全国展開しているいわゆる「白い革命」を事例として取り上げ,グローバルスタンダードという近代の論理がインドという固有なヒンドゥー的社会において浸透・変転する動態を考察することが本研究のテーマである。初年度(本年平成15年度)は,平成14年度の現地フィールドワークによって収集された一次データを経済学的に分析し,かつその成果を学術および学会へ報告することを目的とした。 「白い革命」は「緑の革命」とは異なり,農村における農地保有規模格差による世帯間経済格差の拡大を助長するものではなく,逆に土地なしや限界農に対し貴重な酪農所得をもたらすことによって経済格差を縮小させる機能を持つとされてきた。これに反し,本事例研究では,酪農新技術,特に高乳量品種である改良牛の導入が大農地保有世帯に限定され,経済格差が「白い革命」によって拡大している実態が示された。またこの要因が酪農要素市場,とりわけ農地貸借市場と賃金労働市場の不備にあり,さらにこれらの市場不備がカーストを軸とする農村の社会経済関係によるものであることが実証された。 事例農村の社会経済関係とは,大農世帯で構成されるカーストと土地なし・限界農を中心とするカーストとの関係性と理解することができ,農地賃貸市場では前者は後者に決して農地を貸出さない,また賃金労働市場では労働者を雇用するのは前者に限らるという制約が両市場の不備をもたらしていた。この研究成果は『アジア経済』2004年4月号に論文として掲載される。 さらに両者の関係性は労働市場と信用市場の連結取引(インターリンケージ)によって性格付けられていることも明らかとなった。農業労働の雇用主は労働者に対し高額信用を与えており,このため都市部では賃金の高い非農業就業機会が拡大しているにもかかわらず村内の農業労賃は極端な低位に留まっていた。しかしながら本研究ではこの様な村内の関係性がカーストを軸として歴史的に形成されたパトロン・クライアント関係であり,労働者,つまり土地なし・限界農にとっても生存リスクを軽減させるように機能していることにも注目をした。この研究成果は日本南アジア学会,2003年全国大会において報告された。
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Research Products
(1 results)