2004 Fiscal Year Annual Research Report
インド酪農村経済とカースト-「世界基準」と「ヒンドゥー世界」の理解のために-
Project/Area Number |
03J04973
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡 通太郎 京都大学, 東南アジア研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | インド / 農村経済 / Agrarian Structure / 白い革命 / パトロン・クライアント / 債務奴隷 / 貧困削減政策 / 農村要素市場 |
Research Abstract |
昨年度はこれまでの成果を博士学位論文へまとめることを主眼においた研究活動を行い,またそのなかの2つの章にあたる個別論文を新たに執筆・投稿した。 博士学位論文は平成16年12月6日に,学位申請論文『経済成長下のインドにおける「白い革命」と農村貧困層-酪農生産の制約要因としての農村要素市場構造を中心に-』として京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に提出され,平成17年1月20日にはその公聴会および口頭試問が行われた。個別論文は「インド・グジャラート州における農業労賃の低位性-農村構造と生存リスクからの考察-」を学会誌『アジア研究』へ,また「インドにおける『白い革命』の貧困削減効果-土地なし層による土着水牛飼育に焦点をあてて」を学術誌『アジア経済』へそれぞれ投稿した(両者とも現在査読中)。 インドでは酪農の技術革新である「白い革命(White Revolution)」が農村部貧困層の所得向上に大きな効果があるとされ注目され、貧困削減政策の中核であるIRDPでも,貧困層が乳牛を購入するための資金融資(補助金付き)に多額の予算が費やされ,過去30年にわたり国際的な研究対象ともされてきた。学位論文ではその膨大な研究蓄積の盲点であった農村の実態解明を行ったわけであるが、そこでは貧困層の酪農参入にとっては農村の要素市場構造(飼料市場,農地貸借市場,労働市場,金融市場など)が非常に重要であることがまず示され,さらにカーストを軸に展開される農村の社会関係がこれらの要素市場の機能不全の大きな原因になっているという点が実証された。このように農村の経済構造のみならず社会構造との関連を含めて「白い革命」やIRDPを評価し,その限界を指摘したわけである。 昨年度の研究の最大の成果は,農村要素市場の機能不全をもたらす背景に,カーストを軸としつつ歴史的に展開してきた農地分配構造の不平等,および債務奴隷制度に類似した大農家と貧困層のパトロン・クライアント関係が存在している点を実証したことであり,その結果,単純な経済的考察だけでは実態の把握が困難であることを示したことである。また経済自由化・市場経済化以降のインドにおいてもなお,市場を機能不全にするような農村構造(agrarian structure)が制度として強力に機能していることを示した点は,インド経済や貧困問題の議論に重要な問題提起となるものである。
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Research Products
(1 results)