2003 Fiscal Year Annual Research Report
フェノール性物質が葉の被食・分解過程を通じて生態系プロセスに果たす役割の解明
Project/Area Number |
03J05409
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
黒川 紘子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 総フェノール / 縮合タンニン / リグニン / 被食防衛 / 分解 / 土壌栄養塩 / 栄養塩循環 / 熱帯雨林 |
Research Abstract |
東南アジア熱帯林において、植物の被食防衛物質であるフェノール性物質が、森林生態系の栄養塩循環に果たす役割を解明するために、まず(1)群集レベルで樹木の葉中フェノール性物質濃度を決定する要因、と(2)フェノール性物質が落葉の分解速度に与える影響、を明らかにした。 (1)樹木群集の葉中フェノール性物質濃度の決定要因として、1)森林の組成(分類群)2)二次遷移に沿った森林発達段階、3)土壌栄養塩、の3つに注目し研究を行った。マレーシアサラワク州ランビルヒルズ国立公園の原生林とその周辺の二次林に、土壌栄養塩と森林発達段階の異なる10調査区を設置し、各調査区の土壌栄養塩濃度と、ランダムに選択した構成樹種(全調査区で約260種)の葉中フェノール性物質(総フェノール、縮合タンニン、リグニン)を測定した。解析の結果、群集の葉中フェノール性物質濃度は、分類群や森林発達段階からは説明できず、土壌栄養塩との相関が高いことが明らかとなった。樹木群集の葉中総フェノール濃度は土壌栄養塩の少ないところで有意に高く、縮合タンニンも有意差はないものの、同じ傾向であった。逆に葉中リグニン濃度は、土壌栄養塩の少ない森林より高い森林で有意に高かった。 (2)上記260樹種の葉特性のばらつきを網羅するように選ばれた40樹種の落葉をもちい、葉の様々な性質と葉の被食率、分解速度との間に成り立つ関係を明らかにした。その結果、幅広い分類群に属する熱帯樹種について、落葉中のフェノール性物質濃度(特にリグニン・縮合タンニン)は落葉の分解速度を遅くすることが明らかとなった。一方、葉の被食に関しては、それらを説明する葉の性質を特定出来なかった。樹木の防衛戦略は植物-植食者相互作用の中で複雑に決まっており、群集内で一つの戦略が卓越していない可能性があるが、被食防衛物質の一つであるリグニン・縮合タンニンは、森林生態系の栄養塩循環を遅くする可能性があることが明らかになった。
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Research Products
(1 results)
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[Publications] Hiroko Kurokawa, Yoshinori Kitahashi, Takayoshi Koike, Julaihi Lai, Tohru Nakashizuka: "Allocation to defense or growth in dipterocarp forest seedlings in Borneo"Oecologia. (発表予定). (2004)