2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J05430
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 啓介 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 中世手形文書 / 唐宋の手形 / 為替手形 / 手形の起源 / 中世の決済システム |
Research Abstract |
本年度は、「替」取引と中世唐・宋の為替取引との比較をするために,両者の手形の取引についての比較を行った。 日本の「替」取引で利用されている割符をはじめとする「中世手形文書」についてはいくつかの研究があるが、同時代、あるいはその前の時期である唐宋における手形取引との比較は、過去まったく行われていない。その結果、日本における手形の起源やその発達を世界史的に位置づけることを不可能になっていたといえる。 本年度は、起源と取引構造の二点について、唐宋の手形と日本の中世手形文書との比較を行った。東洋史の先行研究の成果によれば、唐宋の手形は民間取引を起源としており、(1)預証(2)為替手形(3)約束手形に構造は分類される。それに対して中世手形文書は、官司間の物資のやりとりの連絡・命令文書を起源としており、取引構造としては唐宋の手形の為替手形に似た構造をしていたことがわかった。 ただし、唐宋の為替手形は受取人に渡される手形のほかに、支払人あてに別ルートで取引内容が伝達され、両者の突合せにより取引の真偽が確認されてはじめて決済が受けられるのに対して、日本の中世手形文書は文書の呈示さえあれば決済が受けられた点に大きな相違があった。 このような相違ができた理由は以下のように考えられる。唐宋の手形が民間取引を起源として誰にでも参加できるオープンなシステムであったのに対して、官司間のやりとりを起源とする日本の中世手形文書は参加者が限定されているクローズドなシステムであった。よって手形の決済にあたってのチェックは、属人的なものに頼って行うことが可能であって、唐宋のようなシステム的なものは必要なかったのである。
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