2004 Fiscal Year Annual Research Report
ジョン・ロックにおける国制と経済の観点からの所有権論のコンテクスト分析
Project/Area Number |
03J05450
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
門 亜樹子 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ロックの救貧法案 / 公共善の実現 / トレードの循環 / ファーミン / ユートピア論 / 初期啓蒙 / インタレスト / ヒューマニズム |
Research Abstract |
今年度はロックのトレード論と救貧法案を中心に研究し、その成果の一部に関して口頭報告を行い、論文として発表した。 1.トレード論に関しては、昨年7月に科学研究費・基盤研究(A)(1)「近代のイングランドの近隣英語圏における啓蒙思想と経済学形成の相互関連の研究」(研究代表者・田中秀夫)の第一回研究会で口頭報告を行い、その発表原稿に加筆・訂正した論文「ジョン・ロックの経済認識-トレードと公共善について」を『イギリス哲学研究』に投稿した(28号に掲載予定)。同論文では、経済論文中でロックがトレードを水流に喩え、貨幣をトレードの車輪を回すものと捉えていたこと、地主、仲介業者、労働者の各々をトレードの循環を担う構成要素として位置づけたことから、国富獲得に際してトレードの滞留の防止が最も重視されていたことを明らかにした。さらに、以上の経済認識の根底に公共善への志向性が存在したことを、『統治二論』、『寛容についての書簡』等を用いて論証した。 2.1697年9月に商務省の専門委員としてロックが提出した救貧法案は、『統治二論』に見られる所有権に基づく自由で自立した近代的人間像と、法案における貧民の扱いとの不整合性が指摘されたり、重商主義研究の観点からは、本源的蓄積期の労働力搾取を正当化するものであるとして従来低い評価を受け、主要著作との内在的連関について必ずしも十分に検討されてこなかった。上記の通り、ロックにおいて政治及び経済の諸問題は公共善の実現という統一的視座の下で議論されており、貧民問題もその一環として考察された。したがって、彼の貧民観を明確にすることは、彼の言う公共善の内実、ひいては理想とした社会像を明らかにすることにもつながると思われる。以上の観点から、Bodlean Libraryより救貧法案草稿(MS.Locke fols.87-88,94-95)の複写物を取り寄せ、救貧法案と併せてファーミン、ベラーズ、ケアリら同時代の救貧法案・労働学校案との比較検討を行うと同時に、同時代の教育論との相違、また初期啓蒙におけるヒューマニズムとインタレストの思想的系譜を視野に入れ、コメニウス、ハートリブ、マンデヴィル、シャーフツベリ、ハチスンの著作及び研究文献の渉猟・精読に努めた。
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