2003 Fiscal Year Annual Research Report
培養心筋細胞系における拍動パターンの時空間ダイナミクスとその生物学的意義
Project/Area Number |
03J05494
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
原田 崇広 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 分子モーター / 揺動散逸定理 / 非平衡系の実効温度 / 光ピンセット / 熱ラチェット / 心筋細胞 / 相分離 / カルシウム波 |
Research Abstract |
本研究では、心筋細胞の自発的拍動を非平衡開放系における定常的ないし動的な運動としてとらえる事を目標としている。そのために本年度は、筋収縮の素課程を担う分子モーターの運動に関する非平衡統計力学的な基礎研究と、細胞集団レベルにおけるマクロな活動に関する実験との両面から研究を進めた。 まず、分子モーターの運動に関しては、非平衡定常状態で運動していると考えられる分子モーターの非平衡性を定量化するため、揺動散逸定理に基づく実効温度の測定を提案した。特に、走査型光ピンセット技術を応用して、実空間で分子モーターモデル(熱ラチェット)を構成し、実験的に実効温度を測定可能であることを示した。それによると非平衡定常状態で運動する分子モーター(モデル)は平衡で定義される温度よりも高い実効温度を示すことが分かった。こうした実効温度は明確に測定可能な量であり、非平衡系を特徴づける一般性の高い尺度となりうる。この結果はPhysical Review E誌に掲載予定である。 また、このようにして定義した実効温度を元に、分子モーターのエネルギー効率を見積もるための理論的枠組みを提案した。この理論は現象論として閉じた形式を持っているため、分子モーターの種類によらない一般的な予想を立てることが可能となり、これまで各論化していた分子モーター研究に一般的な視座を与えるものになると期待される。この結果はすでにプレプリントとして発表しているが(T.Harada, cond-mat/0310576)現在投稿準備中である。 細胞培養系の実験に関しては、細胞集団の力学的及び電気的な活動を長時間安定に観測するための基本的な実験系が整い、予備的な実験結果が得られ始めた段階である。この実験系により、心筋細胞集団の細胞間ネットワーク形成に関する新奇な現象が発見された。自発的に拍動を続ける心筋細胞群と、それに共存している繊維芽細胞群との間で、約1週間の時間スケールで相分離様のクラスター形成がすすむことが見いだされた。特に過渡的に形成される細胞間ネットワークが、高分子系などにおいて知られる「粘弾性相分離」現象に酷似していることから、同様のメカニズムによって相分離が進行することが予想される。現在この現象についての論文を準備中である。 また、フランスInstitut Non Lineaire de NiceのValentin Krinsky教授らのグループと共に、心筋細胞培養系におけるらせん波の発生メカニズムとその制御方法に関する共同研究を開始した。本研究で構成した実験系を用いることにより、培養系に発生するカルシウム波を長時間観測することができるため、不整脈を起こした心臓の除細動についてのKrinsky教授らの新しい理論を検証することができると考えられる。
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[Publications] Takahiro Harada, Kenichi Yoshikawa: "Fluctuation-response relation on a rocking ratchet"Physical Review E. (in press).
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[Publications] 原田崇広: "光による微小物体の運動様式制御:非平衡性と一多様性"光技術コンタクト. 41. 23-30 (2003)