2003 Fiscal Year Annual Research Report
フラーレン多価アニオンと高スピンクラスターの電子状態及び分子構造に関する研究
Project/Area Number |
03J05960
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
森 展之 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | フラーレン多価アニオン / 局在スピン構造 / 多電子縮約密度行列 / スピン密度分布 / 電子状態 / ヤーン・テラー変形 / 包接化合物 / 微細構造テンソル |
Research Abstract |
1、高対称種フラーレン多価アニオン類の基底状態の決定、及び微細結合定数の符号を予測する多電子縮約密度行列に基づく計算方法の開発 多電子縮約密度行列を用いて局在スピン構造の抽出と評価を行う新しい手法を確立し、3次元的に非局在化したスピン間の相互作用が重要であるフラーレンC_<60>及びC_<70>の励起三重項状態に適用してその有効性を確認した。さらに、C_<60>及びC_<70>ジアニオン三重項状態、トリアニオン四重項状態について微細構造テンソル計算を行い、D値の絶対符号を予測した。絶対符号について、スピン密度分布及びヤーン・テラー変形に伴う分子構造の歪みとの関係を考察した。 結果:フラーレンC_<60>, C_<70>高スピン状態について、各対称性ごとに密度汎関数法(UB3LYP/6-31G(d))による構造最適化を行い、ROB3LYP/6-31G(d)によって各MOの係数を決定し、多電子縮約密度行列により各局在スピン構造の重みを考慮して点双極子近似による微細構造テンソルの計算を行った。励起三重項状態C_<60>及びC_<70>の構造最適化の結果はそれぞれC_<2h>, C_<2v>が最安定構造となり、I_hとD_<5h>対称からのヤーン・テラー変形の可能性を示唆した。微細構造テンソル計算の結果、D値の絶対符号はそれぞれ負,正となって共に実験結果と一致し、本計算方法及びモデルの有効性が示された。C_<60>^<2・->ジアニオン基底三重項状態はoblate型D_<3d>対称ヘヤーン・テラー変形し、微細構造定数Dは正であることを示した。C_<60>^<3・->トリアニオン基底三重項状態についてもoblate型D_<3d>対称へのヤーン・テラー変形と正のD値を持つことがわかった。C_<70>^<2・->ジアニオン、C_<70>^<3・->トリアニオンはどちらも高スピン基底状態を形成し、C_<70>^<2・->ジアニオン三重項状態は、D_<ZZ>軸方向に縮んだC_<2V>対称ヘヤーン・テラー変形することがわかった。C_<70>^<3・->トリアニオン四重項状態は擬縮重した縮退のないLUMOと二重縮退したnext-LUMOにスピンが平行に入る結果、ヤーン・テラー変形を生じずにD_<5h>対称を保持することがわかった。D値の絶対符号はいずれも正であると予測された。本結果は、フラーレンのような電子が3次元的に非局在化した系に対して、半古典的な双極子-双極子相互作用モデルや円軌道運動モデルの適用はスピン間相互作用をあまりに単純化するため適当でないことを明確に示している。 2、C_<60>(γ-CyD)_2^<2・->ジアニオン高スピン状態の電子状態及び分子構造の解明^※ 我々はこれまでのESR測定及び計算結果から、包接化によるゲスト分子C_<60>への分子構造と電子構造に対する影響は非常に小さく、包接されたC_<60>^<2・->ジアニオン三重項状態はD_<3d>対称をとると思われる。今回新たに軌導の群論的考察から、D_<3d>対称を保持する場合はprolate型をとりえず、oblate型のみが安定であると結論した。現在、C_<60>(γ-CyD)_2^<2・->ジアニオン三重項状態の構造最適化と微細構造テンソル計算を検討中である。※雑誌Angewandte Chemie International Editionに投稿中。
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[Publications] Mori. N: "A stable triplet-state gamma-cyclodextrin bicapped C-60 dianion and molecular clusters in water : ESR spectroscopy and DFT calculations"SYNTHETIC METALS. 137(1-3). 1315-1316 (2003)
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[Publications] Nobuyuki MORI: "The Absolute Signs of the Fine-Structure Constants of Triplet Fullerene C_<60> and C_<70> in the Triplet Ground State"Osaka City University International Conference on Molecular Science(Book of Abstract). 42 (2003)
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[Publications] 森 展之: "フラーレンC_<60>, C<70>の励起三重項状態及び高スピン多価アニオン状態の微細構造定数の絶対符号に関する研究"第42回電子スピンサイエンス学会年会(SEST2003)講演要旨集. 160-162 (2003)
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[Publications] 森 展之: "フラーレンC_<60>, C_<70>の励起三重項状態及び高スピン多価アニオン状態の分子構造と微細構造定数の絶対符号"分子構造討論会2003講演要旨集. (CD-ROM). (2003)
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[Publications] 森 展之: "フラーレンC_<60>, C_<70>励起三重項状態及び高スピン多価アニオン状態の微細構造定数の絶対符号に関する研究"第84春季年会講演予稿集. I. 56 (2004)