2003 Fiscal Year Annual Research Report
ジェンダー構築のダイナミズム=ネパールでの調査をもとに=
Project/Area Number |
03J06283
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
佐野 麻由子 立教大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | ジェンダー規範 / 差異の境界構築 / 差異の境界保護 / 民主的介入 / 当事者性の尊重 |
Research Abstract |
Butlerをはじめとする「構築主義」とよばれる潮流は、権力者により構築された差異化を否定する一方で、人々の構築する差異の境界(アィデンティティ)を尊重するという一見両立しがたい論を展開している。言い換えれば、構築主義はすべての差異の境界を最小化し、最終的になくすことを希求している点で「民主的(普遍的)なアプローチ」をとる。一方で、人々が結束のために境界を構築することを尊重する点では「相対主義的なアプローチ」をとる。では、いかなる差異化は修正されるべきであり、いかなる差異化は尊重されるべきなのか。「構築主義」は「未決状態の連鎖」ということばを用いるが、具体的な考察が必ずしもなされていない。そこで、2003年9月〜12月および、2004年1月〜3月にかけてネパールにおける聞き取り調査を行った。 ネパールでは、生理中の女性を穢れとみなし、台所・寺院の出入りを制限する規範は宗教(仏教徒ヒンドゥー教徒)、民族(アーリア系、モンゴロイド系)に関わらず広く流布している。聞き取り調査から、台所への出入り、男性との接触の制限を抑圧的に感じている点、それらは他者によって強制される点が明らかになった。その一方で、インタビューを行った12名中2人を除き、自分を穢れた存在とみなさないが、信仰心から寺院への参拝を自重し、宗教的儀礼に参加しない点、宗教的儀礼の不参加は他者の気持ちを汲み取ってのことである点が明らかになった。この事例から、差異の境界構築をめぐるアプローチとして(1)「自己の心の平安」と「他者の心の平安」という軸、(2)差異の境界保護をめぐるアプローチとして「民主的な介入」と「当事者の尊重(当事者に対して相対主義的態度で臨む)いう2軸が導かれた。これら2軸をかけあわせ、さらに(a)「自己の心の平安(個人の自由)」を求めていても、民主的介入すべき文脈、(b)他者の心の平安を考慮していても(民主的プロセスを経て決定)、民主的(人間としての普遍性から)介入すべき文脈、(c)越境すべき境界であっても自己の心の平安を尊重すべき文脈、(d)越境すべき境界であっても他者の心の平安を尊重すべき文脈の4つの文脈が想定されることとなった。 (a)例え、宗教的な自己満足から規範に従っていたとしても、「女性は穢れているから生理中の規範に従うべき」、「従わなければ罰があたる」という考えに基づいているのならば、それに対して「同じ人間」という立場からその考え方に対して介入すべきである。(b)また、同様に当該社会成員の多くが「生理中の女性は穢れている」という認識をもち、当事者がそれを認識した上で他者を考慮して規範に従っていたとしても「同じ人問」という立場からその考え方に対して介入すべきである。(c)結果的にそれが男女の境界を構築するものであっても、生理中の女性自身が穢れていると思わない上で自己の宗教的満足において生理中に寺院参拝を行わないのならば、個人の「心の平安」を尊重すべきである。(d)生理中の女性を穢れた存在として宗教的儀礼から排除されることは将来的には廃止されることが望ましい。しかしながら、当該社会成員の多くとってそれが宗教的に重要な意味をもつ点、肉を食べた者も同様に排除される、つまり生理も一時的差異にほかならない点においては、生理中の規範を遂行する当事者性を尊重すべきである。これら4つの文脈には「人間としての共通項」としての対話が開かれているか否か、その上での一時的境界と永続的境界であるのか。また、個人の自由を最大限尊重したとしても、「人権」を満たしているのかの条件が含まれる。 今後、これらの知見を中範囲理論へと展開させていきたい。
|
Research Products
(1 results)