2004 Fiscal Year Annual Research Report
ジェンダー構築のダイナミズム=ネパールでの調査をもとに=
Project/Area Number |
03J06283
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
佐野 麻由子 立教大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 社会学 / ジェンダー / ネパール |
Research Abstract |
前年度に引き続きジェンダー秩序を構築する実践の把握を目的としてネパールで女性の汚穢に関する質問票調査および聞き取り調査を行った。質問票調査では2004年7月〜8月に国立パドマ・カニャ・キャンパスと国立トリブバン大学の学生を中心に123人を対象とし106の有効回答を得た。聞き取り調査では2004年6月〜8月の間に国立パドマ・カニャ・キャンパス・ウイメンズ・スタディ・コースの教員を含む約20人の女性に話を聞いた。質問票調査の結果から、(1)約8割が差別と認識しながらも生理中の家族の制約に従う、(2)約7割が科学的知識に依拠して生理中の自己の汚穢を否定する。しかし、約9割が信仰・文化的理由により生理中の寺院参拝・宗教儀礼を自重することがわかった。聞き取り調査では、女性学に接する女性でも生理中の寺院参拝の自重を差別でなく信仰として認識している点がわかった。ネパールでは1960年代から政府や民間団体が、神の範疇にあった生殖を人間の手中に戻すために家族計画の一環として科学的知識の普及に努めてきた。知識の普及は、生理中の接触や台所の出入りの禁止等を差別として認識する根拠となった。しかし、聖なる文脈における女性の汚穢観を消すまでには至らない。医薬品に関する知識は、聖なる文脈における自己の汚穢の消滅(例えば、重要な儀礼の際に生理を遅らせる)に利用されるのだ。 上述の結果は「生物学的差異の象徴としての汚穢」という先行研究を支持すると同時に参与する女性の意味付けを解明した。それは、男性に対しては「尊敬される女性」としての自己顕示を、女性内では「知識と信仰双方を兼ね備えた女性」としての差異化を示す。女性たちは生物学的営為を理解し自己の汚穢を否定するが、「生理中の寺院参拝の自重」という実践を介して間接的に汚穢の構造を維持することとなる。 今後、この問題点を女性学における身体論を参照しながら探求したい。
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