Research Abstract |
研究計画では1年目に,山梨県長坂町のオオムラサキの生息地において,(1)広葉樹林・針葉樹林の分布,(2)寄主植物の分布場所,(3)越冬幼虫の木当たり密度,(4)成虫の密度と吸汁源の調査を予定し,いずれも計画通りに実行することができた。これらの調査項目はオオムラサキが高密度に生息する渓流沿いと,低密度に生息する台地斜面および上部において実施した。 (1)広葉樹林・針葉樹林の分布…渓流沿いでは広葉樹林は谷壁斜面に渓畔林として,さらにその上方の緩斜面にクヌギやコナラの人工林として分布した。針葉樹林は緩斜面のみに分布し,スギやヒノキなどの有用針葉樹が育成されていた。台地では広葉樹林は斜面と上部平坦地,針葉樹林は上部平坦地のみに見られた。広葉樹林はクリやコナラの二次林で斜面では帯状,平坦地ではパッチ状に分布した。針葉樹林はスギ・ヒノキの人工林でパッチ状に分布した。広葉樹林の面積率は渓流沿いで高かった。 (2)寄主植物の分布場所…2地区ともエノキとエゾエノキが認められた。台地では,両樹種とも斜面の沢地形,および斜面の二次林林縁,斜面に作られたオオムラサキの保護区,上部平坦地にパッチ状に分布する二次林林縁,およびその付近の荒れ地であった。保護区以外では1ないしは2〜30本程度の小集団で存在した。保護区では2〜3m間隔の格子状に植栽されていた。渓流沿いでは両樹種は氾濫原,谷壁斜面下端,中洲,川に対し直行する小さな沢の下方などに多く認められた。両樹種の総本数は渓流沿いで1683本,台地では825本であった。台地ではエノキ,渓流沿いではエゾエノキの割合が高くなった。台地でのエノキの本数割合は,斜面二次林,斜面保護区,上部平坦地のいずれにおいてもエノキが多かった。 (3)越冬幼虫の分布…渓流沿いでは台地に比べて,調査本数に対して幼虫が見つかった本数の割合と木当たり密度が高くなった。また,渓流沿いではエゾエノキでの幼虫の密度は,エノキよりも高いことが判った。台地では,幼虫が発見された木の本数の割合と木当たり密度は,斜面の二次林,斜面に造成された保護区,上部の平坦地の荒れ地およびパッチ状の二次林の順で高かった。 (4)成虫の密度と吸汁場所…成虫の密度も渓流沿いで高かった。台地での吸汁源はクヌギの樹液のみだったが,渓流沿いではコナラの樹液,林道や畑の湿った地面,石垣,獣糞など多様であった。 以上の結果から,本種の生息密度を規定する要因として,広葉樹林の面積率,奇主植物の本数,成虫の餌メニューの多様さなどが考えられた。
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