2004 Fiscal Year Annual Research Report
現代米国の学校改革におけるコミュニティ構築の思想と論理
Project/Area Number |
03J06851
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
後藤 武俊 東北大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 学校選択制 / コミュニティ / 共同性 / 自律性 / リベラリズム / 不平等 / 自己決定権 / 公教育 |
Research Abstract |
本年度は、学校選択制に関する研究を中心に進めた。第一に、クーンズ(John E.Coons)とシュガーマン(Stephen D.Sugarman)、ブリッグハウス(Harry Brighouse)、ガットマン(Amy Gutmann)の三者の学校選択論を素材に、公教育制度において共同性の承認と個人の自律性の育成を同時に求める場合に浮上する制度理論上の分岐点を明らかにした。具体的には、(1)家庭やコミュニティの共同性の中で個人の自律性が発達すると見る場合には、自律性の内実は親・教師・カウンセラーなどの共同的決定に委ねられ、共同性の相対化によって自律性が発達すると見る場合には、国家にその内実の決定が委ねられる可能性が高いこと、さらに、(2)国家が自律性育成の責任を負う場合、自律性のスキルを身につける機会の提供に留まるのか、そのスキルを政治的・社会的参加に向けて活用する態度の育成にまで踏み込むのかが、公権力行使の正当化に関わる分岐点となること、などを明らかにした。 第二に、コミュニティと市場の相互関係という視点から、学校選択制と教育機会の平等化の両立が可能なのかどうかを、主に1970年代の学校選択論を素材として分析した。継続中の課題であるが、暫定的な結論として、(1)この時期の学校選択論は、人種的不平等の解消と家庭の私的選好の承認を両立させるために詳細な制度設計を追求し、結果として官僚制的統制の拡大を要求するものになったが、これは個人の自己決定権の承認を根源とするリベラリズムの必然的帰結であること、(2)これに対して、公教育を家庭の私的選好に基礎づける限り不平等の拡大は避けられない、などの批判が提起されたが、この批判は家庭の私的選好にもとづく不平等を問題化する以上、個人の自己決定権・「善き生」の私的所有の相対化という理論的課題に直面すること、などを指摘できる。
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