Research Abstract |
今年度中は,主に測度距離空間上の解析,特に調和関数の正則性についての研究を行った.ここで調和関数とは,同じ境界条件を持つ関数全体の中でエネルギーが最小である関数のことである.測度距離空間上のエネルギー型式の定義には幾つかの方法があるが,その中で,特にCheegerによって定義されたエネルギー型式について研究した.例えば,バナッハ空間の場合には,滑らかな関数ならばその各点で方向微分の大きさを考えることができるが,このとき,Cheeger型エネルギーはその最大値,つまり,微分の作用素ノルムをとったものになる.これは双線型ではなく,よってディリクレ型式ではないため,通常の解析的・確率論的な議論は適用できない.しかし,バナッハ空間やフィンスラー多様体のような,それ自身双線型でない対象については,双線型でないエネルギー型式を考えることはむしろ自然なことである. さて,今年度の研究によって,次の結果を得た:「測度の二倍条件と(1,2)型弱ポアンカレ不等式を満たす測度距離空間の余接空間の単位球が一様に十分丸いとき,調和関数はヘルダー連続である.」一般には測度距離空間では余接空間は定義できないが,Cheegerの定理により,この定理で考えている状況ではそれを定義することができ,有限次元のバナッハ空間になる.また,バナッハ空間の単位球が'十分丸い'という条件は,簡単な不等式で与えられ,幾何学的には,単位球の曲率が一様に上から押さえられているということを意味する.このとき,特にバナッハ空間はuniformly non-squareになるが,曲率を下からは押さえていないため,狭義凸であるとは限らない.この定理はBiroliとMoscoのディリクレ型式に関する定理の拡張になっている.
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