Research Abstract |
東南アジアの低地常緑熱帯雨林は,ヘクタールあたり150種以上の樹木が生育する世界で最も種多様準の高い地域である.この森林の林冠構成種であるフタバガキ科は,東南アジア熱帯で多様化し,500種ほどが知られている.特に,ボルネオ島の原生林では50種ほどのフタバガキ科近縁種が同所的に生育しているが,これら近縁種の種分化機構および個体群維持機構に関しては未だ不明な点が多い.近縁種間の遺伝的差異と種内の遺伝子多型を調べる集団遺伝学的手法は,種分化を促進する(または遅延する)個体群統計学的要因と自然選択(すなわち適応)の効果調べることにおいて非常に有効な手段である.そこで本研究では,ブタバガキ科近縁種間および種内おける複数遺伝子座のDNA塩基配列を決定し,近縁種間の遺伝的分化と種内の遺伝子多様性の程度を調べた.材料にはマレーシア・サラワク州・ランビル国立公園で採集したフタバガキ科ショレア属4種,合計22個体を用い,3核遺伝子座(PgiC, Met, GBSSI)の塩基配列,合計約4kbを決定した.サイレントサイト当たりの平均塩基置換数は,S.bullata, S.fallax, S.kunstleri, S.smithianaでそれぞれ,0.005,0.012,0.008,0.007であった.遺伝子系図を作成した結果,同種の遺伝子はクラスターせず,また遺伝子間で異なる樹型を示した.この結果は,祖先多型の不完全なソーティング,また種間交雑によるイントログレッションによるものであると考えられる.そこで,これらの原因を区別するために,共通祖先の集団サイズおよび種分化後に起こったイントログレッションの程度を最尤法によって推定した.その結果,共通祖先の集団サイズの推定値は現存種より小さいことが示された.また,S.fallaxを除く3種間では,種分化後のイントログレッションはほとんど起こっていないことが示された.
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