Research Abstract |
本研究の目的は,シリコン結晶の延性-脆性遷移(DBT)の機構を超高圧電顕法を駆使して明らかにすることである.このDBT挙動に大きく影響を与える転位は,亀裂先端近傍で発生すると考えられるが,既存のDBTに関する研究は,肝心の亀裂と転位の観察において,数mmのオーダーの巨視的観察しか行われておらず,転位構造を決定できる透過電子顕微鏡法を用いた転位の直接観察はほとんど行われていない.そのような中で本年度は,高温で三点曲げ試験を行い,ノッチ先端に転位を導入し,その周辺を赤外光弾性法により観察し,転位による応力遮蔽場の存在を実験的に示した.そして,加熱後の試料の亀裂先端近傍を,超高圧電顕法を用いて観察し,発生した転位の構造解析を詳細に行い,転位のDBTに及ぼす影響を考察した. まず,亀裂先端の転位による遮蔽場を可視化するために,赤外光弾性法観察を行った,ノッチを導入した試片を1000K付近で三点曲げ試験を行い,試片が破断する前に除荷し,室温にて赤外光弾性観察を行った.その結果,ノッチ先端に転位の応力場に対応した像が観察された.この像と光弾性シミュレーション像とを比較したところ良い一致が見られ,転位による応力場が圧縮場であることが実験的に実証された.次に,シリコン結晶にインデンテーション法で亀裂を導入し,加熱することで亀裂先端に転位を発生させた.すべり面が板面に垂直になっているHinge-type塑性域において,温度の上昇と共に,発生する転位の数が増え,クラック先端の転位密度が増加することが明らかになった.このことより,シリコンの破壊靭性値が,ある温度を境に急激に上昇する鋭い延性-脆性遷移は,亀裂先端近傍での急激な転位の増殖による応力集中緩和によって,説明できることが明らかとなった.
|