2004 Fiscal Year Annual Research Report
ヒロシマの記憶が生成される場における国民国家イデオロギーの作用
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03J08471
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
直野 章子 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 文化社会学 / 記憶 / 国民国家 / ヒロシマ |
Research Abstract |
●「原爆の絵」の作者10人に対して、また昨年度までに既に調査済みの作者のうち5人に対して再び聞き取りを行った。被爆体験はどんな言葉をもってしても表現することができない、話したところでわからないという作者たちの証言は、他のトラウマ体験の<表象不可能性>や<伝達不可能性>と共通性を持つものだ。作者の多くは、それまで自分の被爆体験を詳しく他者に話したことがないというが、それは、体験の<表象不可能性>や被爆者に対する差別と偏見だけに起因するのではなく、聴き手が被爆者の声に、真摯に耳を傾けてこなかったということにもある。これまでの聞き取りの成果として、岩波ブックレット『「原爆の絵」と出会う』を出版した。 ●昨年度に引き続き在韓被爆者とのネットワーク作りを進め、5人に対してインフォーマルな聞き取りを行った。戦後補償を拒否し続け、日本にいる被爆者と同様の施策を行おうとしない日本政府に対する怒りが表現されることが多かった。同時に、韓国社会においても、原爆の被害に対して社会的な理解が欠如していることが語られた。「被爆者の願い」として日本では流通している核兵器廃絶の訴えは、ほとんど語られなかった。 ●日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が1985年にまとめた「原爆被害者の基本要求」が作成される過程について、当時の文書や関係者からの聞き取りを行った。日本人被爆者の運動は、左派知識人などから「被害者意識」として批判されがちだが、被団協は運動初期から一貫して国家補償を要求しており、また「基本要求」作成過程では、国家補償要求と戦争責任の追及が結びつけられた。一方で、朝鮮半島の被爆者に対する補償要求が、1990年代後半になるまでなおざりにされてきたことからも、被団協運動が「日本人」の運動として推進されてきた一面は否定できないだろう。
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Research Products
(1 results)