2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J08508
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
小林 麻衣子 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 近世史 / 政治思想 / スコットランド / スチュアート朝 / 王権神授説 / 人文主義 / ジェイムズ六世 |
Research Abstract |
本年度は、16世紀後半のスコットランドの思想家、貴族、法律家、聖職者たちの作品を中心に研究に必要な資料の収集を国内及び英国で行い、その読解・分析を行った。 「世界と人間の発見」を特徴とするルネサンス期に、ヨーロッパ大陸の人文主義者の多くが、君主に必要な道徳観や教育等に関する箴言書を書いた。この箴言書の隆盛は、15世紀以降、「君主の鑑」ジャンルへと発展し、政治思想の理解に重要な役割を果たす。 本研究の対象時期である16世紀後半のスコットランドでは、国王ジェイムズ6世の小論文『バシリコン・ドロン』が顕著な「君主の鑑」作品である。一方、ジェイムズと同時代のスコットランド人によって記された作品には、例えば、リチャード・メイトランドの『ジェイムズ6世へ』やジョージ・ブキャナンの『スコットランド国王ジェイムズ6世の生誕の祝賀』などがあり、彼らは主に詩の中で、「理想の君主像」を追求し、君主に箴言した。 ジェイムズと彼らの作品を比較検討すると、ジェイムズは、ヨーロッパ大陸の「君主の鑑」ジャンルの伝統にそくした箴言書を書き、神の代理人としての国王を理想とし、キリスト教の倫理観とアリストテレス的な古代の徳を融合した教えを提示した。また、そこには現実の政治に必要なマキァヴェッリ的な統治術も含まれていた。それに対して、他のスコットランド人による作品に共通に見られた理想像は、ヨーロッパと比べて神聖なる国王像がほとんど強調されていなかった。彼らは専ら古代の徳を模範として、シヴィック・ヒユーマニズムの伝統にそぐした国王像を掲げたのである。今後スコットランド及びヨーロッパにおける幅広い一次資料の分析を通じて、「君主の鑑」の視点から、スコットランドにおける国王ジェイムズの思想、彼を取り囲むスコットランドの思想の潮流、そしてヨーロッパ大陸における思想の潮流について理解を深めることが可能となるであろう。
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