2003 Fiscal Year Annual Research Report
殺人者に対する20世紀アメリカにおける法的判断と殺人物語群における解釈の比較研究
Project/Area Number |
03J08809
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
権田 建二 東京都立大学, 人文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 反リベラリズム / ポストモダン法学運動 / 批判法学研究 / 批判人種理論 / 死刑制度廃止論 / 負荷のない自我 / 公正としての正義 / 選択の共和国 |
Research Abstract |
今年度は、20世紀アメリカの殺人物語群のうち2作品を取り上げ研究を行った。Richard WrightのNative SonとNorman MailerのThe Executioner's Songである。 Native Son諭においては、黒人の殺人者を裁くアメリカの法制度に対するWrightの批判と、20世紀アメリカに固有のポストモダン的法批判運動の一派である批判人種理論(Critical Race Theory)の主張を比較した。両者の議論に共通しているのは、リベラルな法思想に対する批判である。リベラルな法理解においては、法とは、あくまでも「個人」のみを対象とするものであり、したがって例えば「アフリカ系アメリカ人」などといった人種に基づく集団のアイデンティティーは捨象されてしまう。Wrightは、批判人種理論の論客たちと同じように、リベラルな法は、集団のアイデンティティーを認めないことによって、それが掲げている理念とは裏腹に、人々を抑圧していることを批判する。 The Executioner's Song論においては、自らの死刑を進んで望む主人公とその周囲の人々の言動を通してMailerが行う死刑制度に対する批判と、1970年代にアメリカで巻き起こった死刑制度廃止言論を比較し論じた。ここでもやはり問題になっているのは、死刑という制度が基盤としているリベラルな法思想である。Michael J.Sandelを始めとする反リベラリズム論者が議論するように、リベラリズムにおいては、人間は歴史を超越した原子化された個人として考えられている。このことによってリベラリズムには、個人の自由を認めながらも多様な生の在り方を否定するという根本的な矛盾が生じる。Mailerの作品や死刑の合憲性をめぐる様々な判決が明らかにするのは、このような矛盾が死刑制度には不可避的に表れているということである。
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Research Products
(1 results)