2004 Fiscal Year Annual Research Report
R.ヴァーグナーの「ロマン的オペラ」研究そのドラマトゥルギーと時間構造
Project/Area Number |
03J08983
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
稲田 隆之 東京芸術大学, 音楽学部, 特別研究員PD
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Keywords | ヴァーグナー / ライトモティーフ |
Research Abstract |
ヴァーグナーの全オペラ作品において「ロマン的オペラ」は、彼のオペラが「ロマン主義」から「リアリズム」に様式的変化を起こす臨界点を形成している。そこには、フランス・グランド・オペラからの影響、オペラ台本における題材と劇的構造の問題、題材と同時代文学との関係、劇的手法としての「ライトモティーフ」技法の導入とその様式的変化が絡んでいる。とりわけ注目すべきものとしては、フランスの作家オノレ・ド・バルザック(1799〜1850)がみせる様式変化との照応関係がある。すなわち、バルザックの小説において「物語の語り手」の視点が「一人称視点」や「制限付全知視点」から完全な「全知視点」になること、題材が「歴史」上から「現代」に移ること、「人物再登場法」が徹底されることといった手法は、バルザックがロマン主義からリアリズムへと作風を変化させていく過程で取り入れていった手法だった。バルザックの小説からの影響をはじめ、ヴァーグナーのオペラは、19世紀の芸術的文化的潮流のなかで「小説」化していくのである。 その「小説」化されたオペラこそが楽劇である。ヴァーグナーは楽劇のなかに「全知の語り手」を設定し、「ライトモティーフ」によって人物の内面を語る。そのとき「ライトモティーフ」では、予感動機、回想動機、旋律的因子、基本動機、オーケストラによる絶対メロディーといった諸機能を使い分ける。ただしヴァーグナーは、人間の根源的な姿を描く必要から、時代や国を超越した「神話」に題材を求めるのだった。以上の問題とフランス・グランド・オペラとの影響関係は一層複雑かつ大きな問題となる。オペラと文学の関係は、ヴァーグナー以後に影響を及ぼしていく。アルバン・ベルク(1885〜1935)の2つのオペラはその最たる例である。
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Research Products
(3 results)