2005 Fiscal Year Annual Research Report
R.ヴァーグナーの「ロマン的オペラ」研究そのドラマトゥルギーと時間構造
Project/Area Number |
03J08983
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
稲田 隆之 東京芸術大学, 音楽学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヴァーグナー / ロマン的オペラ / 時間構造 / タブロー化 |
Research Abstract |
19世紀オペラにおける時間構造は、大きく5種類に分類できる。基本的には、「レチタティーヴォ」(語りに近い歌:時間と筋が一定に進行)と「アリア」(楽曲としての歌:筋は中断、時間は不規則;物理的な時間は静止)が交互に用いられてドラマが構成される。本研究で注目したのは、こうしたオペラの基本的な時間構造とは別に存在する2種類の重唱(合唱が加わる場合もあり)のうち、19世紀オペラ特有の現象、すなわち時間の流れも筋の展開も静止する「タブロー化」の場面である。ヴァーグナーの「ロマン的オペラ」における「タブロー化」の意味のほか、「ロマン的オペラ」以後の「タブロー化」を否定した作品との関係、および「ライトモティーフ」技法との関係について研究・考察した。 ヴァーグナーの3つの「ロマン的オペラ」--《さまよえるオランダ人》、《タンホイザー》、《ローエングリン》--は、作品を追うごとに様式的に楽劇に近づく。そのため3作品の内部でドラマが「タブロー化」する場面は少なくなるはずなのだが、結果は逆だった。つまり作品を追うごとに「タブロー化」の場面は増えていく。とりわけ3作目の《ローエングリン》は、フランス・グランド・オペラの特徴である「歴史」を題材にする一方で、ドイツ・オペラの特徴である「メルヘン」を題材にしている。前者の特徴である合唱の存在が、後者のメルヘン(白鳥に乗った騎士の伝説)に注釈をする。まさに古代ギリシャ悲劇における「コロス(合唱隊)」の機能だが、それが《ローエングリン》以後の楽劇の手法である「ライトモティーフ」技法と結びつくと考えられる。そして《ニーベルングの指環》では「ライトモティーフ」技法が、ドラマの「タブロー化」の現象を引き継いでいくとみなせるのである。それに関わって、「アリア」と「レチタティーヴォ」による対比的な時間構造が崩壊していくことが重要である。
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