2004 Fiscal Year Annual Research Report
初期印刷本『カンタベリー物語』に関する書物史ならびに書誌学的研究
Project/Area Number |
03J09005
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
徳永 聡子 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 初期印刷本 / 中世写本 / カンタベリー物語 / テクスト校合 / 書誌学 / 羊飼いの暦 |
Research Abstract |
本研究では、初期印刷本『カンタベリー物語』を中心に、15世紀末の書物生産の実際や同時代の読者層の問題について考察することを主眼としている。本年度は、前年度に引き続き1498年に印行されたド・ウォード版『カンタベリー物語』を現存する写本とその他の15世紀に出版された印刷本とテクスト校合を行い、ド・ウォードが底本として用いた写本の特徴とその編集方針についての考察を完了すべく研究を進めた。これまで研究者の間でド・ウォードが使った写本についての見解は一致をみていなかった。しかしながら本年度の研究から、現存する写本のなかで、現在テキサス大学が所蔵するMS46にもっとも近いことを立証することができた。さらに、ド・ウォードの出版活動をも考察することで、ド・ウォードが同時期に積極的に出版に取り組んでいた韻文ロマンスや説教集のジャンルに属する物語の特徴を、この『カンタベリー物語』でも強調している点を明らかにした。この研究成果は博士論文にまとめ、慶應義塾大学に2005年3月に提出・受理され、現在審査中の段階にある。 さらに本年度は、研究の対象を『羊飼いの暦』という作品にも広げた。この作品は『カンタベリー物語』と同じように様々なテクストから構成され、ド・ウォードをはじめ数多くの印刷業者によって出版されている。『カンタベリー物語』に含まれる巡礼の物語には、宗教的なテーマを扱ったものも少なくない。特に15世紀末頃からは、このジャンルの物語のみを抽出して他の宗教作品と一緒に一冊の書物を作る傾向が強く、新たな作品受容の形体が生まれた。こうした点を考える上でも、『羊飼いの暦』は同時代の読者の宗教作品のジャンル性への認識について新たな視座を与えてくれる。本年度は慶應義塾大学所蔵の刊本(16世紀末刊行)を軸として研究を進め、作品解題と書誌学的な記述を松田隆美教授(慶應義塾大学)と共同執筆し、論文集に発表した。
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Research Products
(1 results)