2003 Fiscal Year Annual Research Report
軍記物語周辺における中世の歴史叙述の様相と、その背景にある宗教/公武権力の分析
Project/Area Number |
03J09068
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大橋 直義 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 系図 / 血脈 / 舎利 / 相承説 / 平家物語 |
Research Abstract |
本年度の研究活動においては、軍記物語生成・享受期にかかわる資料群の中でも、ひろく「系譜」に着目し、その文献調査にあたってきた。具体的には一年間を通じて京都市山科区に存する小野曼茶羅寺随心院の聖教群における系図・血脈類の調査ならびに考察にあたってきた。改めて特筆するまでもなく、血脈は、平安・鎌倉期における僧侶の人的交流や師資相承関係を示すのみならず、過去に連なる自流をいかに認識し、表現するかという一種の歴史叙述でもある。この点において、『平家物語』やその他の軍記物語における歴史叙述の様相と重なりあうものであるのだが、特に血脈の持つ図形による表象様式をおよそ四つに分類するとともに、各分類における意味するところの違いについて論じた。また、これらの血脈は、それが収蔵される函単位においても聖教間のネットワークを表象しうるものであり、意味内容・様式、また聖教間における関係といったあらゆる面における相互的関連性について論じるべきものであると本年度三月に刊行された論考において言及した。また、同じく軍記物語生成期における仏舎利相承説の展開の様相と、その展開相が実際の中世社会(天皇家・摂関家・幕府)に対していかなる言説的機能を担わされていたか、またそういった舎利を介した歴史叙述に介入した西大寺叡尊教団などの諸問題について、本年度七月刊行の『日本文学』(中世特集号)に掲載された論考で論じた。 上記二点の問題については現在も続稿を執筆中であるが、その他にも、『平家物語』の生成に深くかかわった中世南都の縁起・巡礼記に見られる、中世の歴史叙述のありかたについて、特に『建久御巡礼記』とその抜書群の研究を継続中である。
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