2004 Fiscal Year Annual Research Report
日本近代文学における〈方言〉使用をめぐる諸問題の検討
Project/Area Number |
03J09540
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 靖士 北海道大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日本近代文学 / 方言 / 語りと時間性 / 文体論 / 方言論 / 方言認識 / 表象論 / 言語の表象 |
Research Abstract |
まず、大正中期から昭和初年代の小説に認められる"地の文の口語化"と呼ぶべき現象については、この時期に一人称の地の語りを試みた小説を対象とし、文末処理・会話文の取り入れ方・視点の調整・時間処理の特色・内容的な傾向に注目した類型分類を進めた。すると、その中でも特に<方言>を活用した一人称小説が、標準語的な文体のものと比較して、物語る行為そのものに伴う時間性を顕著に現前させることが判明した。そのような時間性の現前は、物語内容の事実確認的な性格を揺るがせるものでもある。「研究発表」欄に書誌を記した3本の拙論では、如上の機構を宇野浩二の作例などに即しつつ論証した。 その上で更に、ラジオ放送やトーキー映画が普及した昭和初年代における、言語表象の時間性をめぐる感性の変質との関連を検討した。すると、語り手の存在とその現在時が、物語内容の現在時とともに紙上に担保される小説とは異なり、物語内容(=話題やストーリー展開)の現在時のみが単独で表象される音声メディアの登場に対峙して、小説における地の語りは、むしろ反対に物語行為に伴う時間性の存在を隠蔽する方向へ展開したことが明らかとなった。そのことは、<方言>を地の語りに活用した谷崎潤一郎『卍』ではなく、標準語的な文体で書かれた横光利一『機械』が「自意識」の正統な表象として受容されていく経緯や、それ以降の一人称小説の主流が、文体における会話体的な要素を排除することから物語行為の時間性を一層隠蔽し、作家の実人生の事実確認的な報告の装いをとる「私小説」へと至った文学史的展開から裏付けられる。そこから更に、『卍』以降の<方言>による地の語りの作例が、近代小説の正統的な表象からは逸脱する、フォークロア的な内容や特殊な時空間等を喚起する時間性の試みであることも理解できた。如上の、<方言>による一人称小説の機能と評価をめぐる検討は、文学の外の社会的な<方言>認識の形成や展開に新たな理解をもたらす切り口ともなる。
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Research Products
(3 results)