2003 Fiscal Year Annual Research Report
家族政策を支える法理念の基礎的考察(ドイツ家族負担調整を手がかりとして)
Project/Area Number |
03J09550
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
倉田 賀世 北海道大学, 大学院・法学研究科, 特別研究員PD
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Keywords | 社会保障法 / 家族政策 / ドイツ |
Research Abstract |
本年度は昨年度までの研究成果を踏まえて、形成された家族政策の基範理念が連邦憲法裁判所の法解釈に基づいてどのような法的効果を有すると解されているのかを明らかにした。同時に基範理念が有する法的効果の具体的な作用を考察した。 考察により明らかになったのは以下の事柄である。すなわち、ドイツで家族政策を支える基範理念と目される基本法6条1項は、基本法3条1項の平等原則と緊密なつながりを有する規範であると解釈されている。その結果、婚姻・家族の保護は「優遇」ではなく、他の社会構成員との比較において「公平」を実現するための手法であると理解されることになる。すなわち、ドイツで育児により家族が被る経済的負担を政策を用いて緩和することは、家族に対する「不利益の是正である」とされる。このような理解に至る前提として、ドイツでは育児に私的な側面のみならず、社会的側面、つまり対社会的な効用(例えば賦課方式の年金保険制度において顕著であるような、将来の年金保険料納付者の育成等)があることが論証されている。このような育児の二面性の社会的承認が、家族のみが育児負担を負うことを「不利益」であると構成することを可能にし、同時にその他の社会構成員も政策を通じて育児負担を間接的に負うべきであるという共通理解につながるのである。その際基本法六条一項という規範は、「不利益」の論証に役立つ。というのも連邦憲法裁判所では六条一項を「不利益」性審査の基準として用いているからである。すなわちこの点が、家族に関わる法政策に対して六条一項が有する最大の意義である。この帰結を基に、ドイツの個別法上での具体的な「不利益」を明らかにし、具体的にどのような法政策を用いて是正しているのかを考察することが次年度の最大の課題である。
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