2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J09850
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
道前 洋史 北海道大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 表現型可塑性 / 形質相関 / 形質相関の可塑性 / エゾサンショウウオ / エゾアカガエル |
Research Abstract |
本研究は表現型可塑性の至近要因及び究極要因の解明を目的として、エゾサンショウウオ幼生の形態的表現型可塑性broad-headed morphをその解明の手がかりとしているものである。以下の2点が明らかになった。 形質相関やその可塑性に関する研究は進化生物学の中でも最重要課題である。エゾサンショウウオの卵サイズとbroad-headed morphの2形質の関係を集団内と環境の異なる集団間で比較した。大きい卵サイズほどbroad-headed morphの発現率が高くなり、卵サイズの大きい集団ほどbroad-headed morphの発現率が高くなった。また、集団内のその相関関係は集団間で変化しなかった。これは進化的時間においてその関係が適応的ではあるが制約されていることを示している。しかし、その関係は実験幼生密度の変化に対しては可塑的に変化した(形質相関の可塑性)。一般に形質相関は適応と制約という2面性をもつ。自然条件下では環境は常に変化しているため、その関係が常に最適であることは少ない。形質相関の可塑性は、進化的に制約された関係に対して一時的な環境の変化に対する適応的な反応と考えられる。この結果は欧文専門誌に投稿中である。 エゾサンショウウオ幼生のbroad-headed morphはその被食者であるエゾアカガエル幼生の高密度化で誘導される。この被食者の認知機構についてまったく新たな知見が得られた。水生動物の捕食者-被食者相互関係においては、以前から特定の化学物質(例えばカイロモン)が相手の存在を知るうえでの重要な手がかりとして知られてきた。例として、被食者は捕食者から分泌される化学物質を手がかりにして対捕食者防御形態(可塑的形質)を発現させる。ところが、エゾサンショウウオ幼生はエゾアカガエル幼生の尻尾が揺れることによって発生する震動でその存在を認知していることが判明した。止水系に生息する動物にとって、震動は化学物質と同様に相手の存在を知るうえで信頼性のある手がかりとなりうることを示した。この結果は欧文専門誌に投稿中である。
|