2004 Fiscal Year Annual Research Report
公共性に着目した人権保護立法と憲法との関係についての研究
Project/Area Number |
03J10089
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榎 透 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 憲法 / 人権保護立法(人権擁護立法) / 国家による自由 / 思想の自由市場 |
Research Abstract |
本研究の目的は、私人間における表現の自由を巡る人権問題を手掛かりに、国家の公共的役割に着目して、人権保護立法(人権擁護立法・人権を保護するための立法)と憲法との関係を明らかにすることにある。 平成16年度は、前年度の研究成果を踏まえつつ、人権保護立法の根底にある「国家による自由(国家による私的権力からの自由)」の性格と、その憲法上の位置づけについて検討を加えた。その成果は、憲法理論研究会(学会)の月例研究会での報告「『国家による自由』の特質と問題点-差別表現規制に関する議論を手掛かりに-」に結実した。この報告では、人権保護立法との関連で現在議論されている差別表現の問題を取り上げ、表現の自由の原理論に留意しつつ、それに対する規制の是非を巡る議論の背後にある考え方を抽出した。その上で報告では、人権保護立法の根底にある「国家による自由」の性格、およびその憲法上の位置づけを考察した。その結果、(1)「国家による自由」は、国家が思想・表現に対して積極的な判断をすることで、思想の自由市場のゆがみにより話者として市場に参加できない者の救済をめざすものであること、(2)しかし、「国家による自由」は、精神活動・社会活動・政治活動を支える思想や表現に対する各個人の判断が、国家によって承認された範囲内でしか認められないという問題点を持つこと、(3)「国家による自由」に憲法上の価値を承認した場合、憲法上の人権規定が個人に対する義務規定になること、を明らかにした。ここで明らかにしたことは、人権保護立法と憲法との関係を考える上で、重要な視座を提供するものと思われる。なおこの報告は、研究論文として、平成17年10月刊行予定の『憲法理論叢書(13)「危機の時代」と憲法』(仮)(敬文堂)に掲載される予定である。
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