2003 Fiscal Year Annual Research Report
無住道暁研究-『沙石集』成立過程と鎌倉後期仏教界-
Project/Area Number |
03J10108
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅田 有里子 (土屋 有里子) 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 無住道暁 / 沙石集 / 説話文学 |
Research Abstract |
『沙石集』全伝本の成立過程を解明するために、写本の調査を中心に研究を進めた。 まず、従来草稿本的な面影を残すとされてきた、お茶の水図書館成簣堂文庫所蔵の梵舜筆『沙石集』の性格を再検討すべく調査を行い、むしろ後出の増補本である可能性を見い出し、論としてまとめている。 次に、無住が長年止住した愛知県名古屋市の長母寺と関係のあった、西尾市の実相寺に赴き、資料の収集にあたった。当時実相寺は無住と同じ東福寺の聖一国師に師事した無外爾然が住持であり、爾然との交流を通して、むしろ無住は聖一国師の死後、東福寺との関係を深めていったのではないかとの感触を得た。同時に爾然は台密の『阿娑縛抄』の初伝者であり、無住の医術も実相寺の導性から伝授されたことなどから、無住が『沙石集』を残す背景に、実相寺の僧侶との交流が色濃く存在したことが判明した。これらの成果は現在執筆中である。さらに実相寺からほど近い西尾市立岩瀬文庫に、江戸初期写『沙石集』が現存することから、その調査も開始した。現在のところ、刊本と同様の刊記をもちながら、細部では独自性を持つ唯一の写本であり、『沙石集』の諸伝本の前後関係と、無住の三回にわたる大改訂の様相を探る問題点が含まれていることが確認できた。 最後に、京都大学付属図書館所蔵の長享本『沙石集』の調査を行った。岩瀬文庫本と共に、『沙石集』の広本と略本という分類の要となる写本であり、独自部分も多く含まれていた。略本系統の中で最古の写本であるので、広本に含まれる他の写本との異同を調査中である。
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