2004 Fiscal Year Annual Research Report
無住道暁研究-『沙石集』成立過程と鎌倉後期仏教界-
Project/Area Number |
03J10108
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅田 有里子 (土屋 有里子) 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 無住道暁 / 沙石集 / 日本説話文学 |
Research Abstract |
お茶の水図書館成簣堂文庫蔵の梵舜筆『沙石集』について研究を行った。梵舜本は従来、『沙石集』諸本の中で草稿本としての面影を遺した、原初的性格を持つ本と位置づけられてきた。無住は『沙石集』を確認出来る限りでも最低二回改訂しており、それぞれの段階を踏まえた諸本が遺されているが、梵舜本の如き形態の本文から他の諸本の本文が改訂を経て成立したとされてきたのである。今回この梵舜本について、やはり古態をとどめていると思われる米沢市立図書館蔵本と比較検討した。米沢に赴き原本を調査した結果、米沢本の方が梵舜本よりもさらに古い形であり、梵舜本はむしろ改訂を経た後出本であるとの結論を得た。その成果を中世文学会秋季大会(於 関西学院大学)で口頭発表した。 次に梵舜本の性格の再検討を踏まえて、京都大学付属図書館蔵長享本『沙石集』についても正確な位置づけを試みる必要があり、長享本の調査を続けた。長享本は流布本系の中で最古の書写奥書をもつ写本であり、大きく古本系と流布本系に大別される『沙石集』の伝本を系統化するために重要な位置を占めており、当本の性格の見極めが急務である。 最後に無住と三河実相寺の無外爾然との影響関係を調査した。爾然は無住と同じ東福寺の円爾弁円の法眷であるが、天台密教の『阿娑縛抄』の初伝者でもあった。実相寺は円爾弁円が開山となって開き、無住の医術の師であった導生が止住した寺でもあり、無住と実相寺の関わりは深い。当時の実相寺を中心とした教学や人脈を調査し、それが無住の『沙石集』執筆にどのような影響を与えたかを研究した。と同時に、当時珍しいことではなかった禅と天台の共存兼学という仏教界の流れにも検討の幅を広げている。
|
Research Products
(1 results)