2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J10133
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂本 宏 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | スペイン / ベアータ / 誘惑僧 / 神秘主義 / 近世史 |
Research Abstract |
三月から十月まではスペインのマドリード市に滞在し、在俗身分のまま宗教生活を送ったベアータと呼ばれる女性と、告解を悪用して女性を誘惑した聖職者について、主に国立歴史文書館と国立図書館において調査を行った。この間に研究費を利用してサフラ市文書館へも調査に行った。帰国後は、収集した史料や研究文献の解読を行った。 研究史上、ベアータは貧困のために仕方なくなる身分だと考えられてきたが、今回の調査の結果、さまざまな境遇の女性がベアータになっていることがわかった。たしかに貧困者が多いが、しかしそれはベアータが消極的な選択肢であったということを必ずしも意味しない。たとえば私が参照した史料の中には奴隷のベアータがいる。奴隷は、他の女性とは違い、ある一定の年齢になっても結婚や修道女になることを選択する必要がない。従って奴隷がベアータになるということは、自らの意思に基づく積極的な選択だったはずである。この例では、ベアータという身分が、経済的能力の欠如している女性に、宗教の道を選択することを可能にしたといえる。逆に、持参金を用意できるだけの経済的能力がありながらベアータになっている女性の存在も確認することができた。ベアータになることは、消極的な選択肢であったどころか、むしろ結婚、修道女にかわりうる魅力的な選択肢だったと考えられる。 誘惑僧については、収拾したほとんどの事例は言葉で告解者を誘惑しただけで、実際の性行為に及ぶ事例はまれであった。性行為をすれば神と合一できると主張する誘惑僧の事例を一件だけ確認したが、文脈から判断する限りその神秘主義教説は性行為を正当化するための口実に過ぎなかったと思われる。一方、アルンブラードはセクトの教義として性行為をすれば神と合一できると主張していた。アルンブラードと誘惑僧の表面的な類似にもかかわらず、両者は別の事象としての検討を必要としよう。
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