2003 Fiscal Year Annual Research Report
ユリアヌスの宗教復興構想の形成と後期ローマ帝国におけるその受容
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03J10219
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高久 恭子 (中西 恭子) 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD)
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Keywords | 古代ローマ宗教史 / 西洋古代思想史 / 初期キリスト教史・教父研究 / 新プラトン主義 / 儀礼研究 / 古典学史 / 倫理思想史 / 宗教哲学 |
Research Abstract |
まず、ユリアヌスの宗教思想における「敬神」(eusebeia)概念の特質を検討した。ユリアヌスの考える「敬虔な信仰」は、宗教的儀礼の実践や日常生活における社会倫理の実践と密接に関連する倫理的志向の強い理念であり、全面的に新プラトン主義の影響下にある思想というよりもむしろストア主義・アリストテレス的倫理学などプラトン主義的系譜以外の諸思潮にも共通の要素を折衷した理念であることを明らかにし、Postgraduate Ancient World Conference(於ブリストル大学)と日本宗教学会、新プラトン主義協会例会で報告を行って高い評価を得た。成果を論文「ユリアヌスの『敬神』」として『新プラトン主義研究』に投稿(2004年3月現在、編集中)。さらに四世紀中葉から五世紀の史料におけるユリアヌス批判を検討し、教父・教会史家と「異教」作家の共通の関心は、ユリアヌスの宗教的党派性の是非よりもむしろ彼の「哲学(フィロソフィア、愛智)」への傾倒や「哲人皇帝」としての事績の実態にあったことを明らかにした。この課題は当時の思潮における「哲学」の意義の解明につながる。論文「帝政後期ローマの皇帝たちと太陽神」では、ユリアヌスが支持したとされる「太陽神」崇拝と帝政後期ローマの諸皇帝の関係を考察した。岩波書店から刊行された共訳書、ホプキンズ著『神々にあふれる世界』は、批判的見地からローマ宗教とキリスト教・ユダヤ教の関係を扱った第一級の基本文献であり、日本語に翻訳した功績は大きい。訳者解説論文では、日本では殆ど紹介されていない英語圏の古典学史における宗教史像を論じたものであり、共著論文「『金枝篇』序説」の第二章「『金枝篇』以前」およびその補論「フレイザーの影響圏と現代におけるその再評価の可能性」と併せて、西洋近代文学でしばしば言及されるユリアヌス像の受容史を考察する上での基礎的作業の一環とした。
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[Publications] 中西恭子: "帝政後期ローマの太陽神"太陽神の研究(下)(松村・渡辺編). 170-182 (2003)
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[Publications] 中西恭子: "『神々にあふれる世界』訳者解説"ホプキンズ(小堀・中西・本村訳)神々にあふれる世界. 下. 305-315 (2003)
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[Publications] 中西恭子: "ユリアヌスの『敬神』"新プラトン主義研究. 4(編集中). (2004)
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[Publications] 中西恭子(The Frazer Projectの研究代表者として): "『金枝篇』以前-古典学者としてのフレイザーとその時代-(「『金枝篇』序説」の第2章として)"猿田彦フォーラム年報「あらはれ」. 6. 78-86 (2004)
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[Publications] 中西恭子(The Frazer Projectの研究代表者として): "フレイザーの影響圏と現代におけるその再評価の可能性(「『金枝篇』序説」の補論)"猿田彦フォーラム年報「あらはれ」. 6. 93-95 (2004)
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[Publications] 松村一男, 渡辺和子編: "太陽神の研究(下)"リトン. 356 (2003)
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[Publications] キース・ホプキンズ(小堀馨子, 中西恭子, 本村凌二訳): "神々にあふれる世界(上・下)※第3-7章、訳者解説を担当"岩波書店. 325, 320+29 (2003)