2004 Fiscal Year Annual Research Report
ユリアヌスの宗教復興構想の形成と後期ローマ帝国におけるその受容
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03J10219
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高久 恭子 (中西 恭子) 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 古代ローマ宗教 / 初期キリスト教史 / 古代ローマ史 / 教父研究 / 新プラトン主義 / 古代ギリシア・ローマ思想史 / 宗教的寛容と共生 |
Research Abstract |
前年度に続き、研究計画の第1部・第2部の枢要となるユリアヌスの宗教思想における「正しい信仰」像を、先行する思潮や新プラトン主義の倫理思想とユリアヌスの著作を比較しつつ考察し、その折衷主義的傾向を明確にし、成果を論文「ユリアヌスの「敬神」」に再構成した。 研究計画の第3部にあたる「ユリアヌスの宗教思想の後期ローマ帝国における受容」にかんしては、キリスト教史料側からのユリアヌス批判の形成過程に注目し、アンミアーヌス・マルケリヌスやリバニオスの著作と比較しつつ、ナジアンゾスのグレゴリオス『ユリアヌス駁論』、ヨハネス・クリュソストモス『殉教者バビュラスについて』、アレクサンドリアのキュリロス『ユリアヌス駁論』、紀元後5世紀の教会史家ソクラテスおよびソーゾメノスの『教会史』に描かれたユリアヌス像を検討した。ユリアヌスのキリスト教に対する敵意への批判と並んで、ユリアヌスの宗教復興構想そのものを、皇帝の権威を超越的に演出した古代末期においてもなお理想とされた「哲人王」の人物類型からの逸脱行為として提示することが、以上の史料におけるユリアヌス批判を支える議論の要であるとの概観を得た。第19回国際宗教学宗教史学会議世界大会では、「背教者」としてのユリアヌス像の描写の方向性を決定づけたナジアンゾスのグレゴリオス『ユリアヌス駁論』に注目して口頭発表を行った。 古代末期のキリスト教と教育の問題、教義論争の社会的背景に関連して、レベッカ・ハーデン=ウィーバー「徴を読む」(「インタープリテーション日本版」掲載決定)、ポーリーン・アレン「ある異端者の生涯--アンティオケイアのセウェロスの場合」(「パトリスティカ」掲載決定)を翻訳した。古代末期に源流をもつ宗教思想とその受容史に関連して、大貫隆他編『グノーシス 陰の精神史』『グノーシス異端と近代』(岩波書店、2001年)を書評し、『宗教研究』誌上に掲載された。
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