2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
03J10719
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今井 上 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 源氏物語 / 平安朝文学 / 漢詩文 / 和歌研究 / 歴史学 |
Research Abstract |
源氏物語第18巻「松風」巻は、これまで本格的な研究がなされぬままに放置されてきた。その「松風」巻の本格的な注釈と読解とによって、当巻が源氏物語の形成に極めて重要な位置を占める事を明らかにするとともに、従来の日中比較文学研究、歴史学、和歌研究の諸分野においても等閑に付されてきた新事実を複数明らかにした。以下それらの成果を箇条書きにする。 1.松風巻においては光源氏の大井行きが描かれているが、それが歴史上の宇多天皇の大井川行幸を準拠(モデル)としている事を明らかにした。これは従来の研究史において全く見過ごされてきた新事実である。 2.松風巻には「荊楚歳時記」に見える張騫天漢訪問説話や、「述異記」に見える晋の王質欄柯の故事など、いわゆる異郷訪問譚の引用が複数見られるが、それらが光源氏の大井行きに宇多天皇の大井川行幸の事跡が重ねられていた事と深く関り合っている事を明らかにした。中国文学および平安朝の漢詩文では帝王が郊外へ巡遊した際の従駕詩において、その巡遊の地を異郷や仙境の如くに歌う事が伝統的になされてきたのであり、源氏物語もそうした伝統をふまえ、光源氏を帝王として描いている事が明確になった。あわせて源氏物語が平安朝漢詩文研究の重要な資料ともなりうる事を指摘した。 3.宇多天皇の大井川行幸では数々の和歌が捧げられたが、従来、従駕詩の表現伝統が十分に理解されていなかった為に、その意味するところが明らかになっていなかった和歌の解釈について、その誤解を修正した。 4.宇多天皇の大井川行幸が嵯峨天皇の河陽行幸にならって催されたものであったという、歴史学的な新知見を提示した。
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Research Products
(2 results)